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アロマキャンドル[短編小説]


過去に自分で書いた楽曲の歌詞を全て使って短編小説を書くシリーズです。


 真っ白い箱がいくつも点在する。その中に人が1人ずつ住んでいる。

 鉛のように重たい足取りが澄んでいた空気を変えたように感じた。私が歩くこの箱を仮に「人生」と呼ぶのなら、私の人生はあの子には何にも関係なくて、白い箱の中をそれぞれ別々に歩く者が2人いる、それだけなはずなのだ。
 太陽というものは私達に何も干渉せずに昇ったり、沈んだりを繰り返す。そのお陰で朝、昼、夜が存在する。だが、どうやらこの箱には太陽が届かないようなのだ。それなのに箱の中は不思議と明るくなったり、暗くなったりを繰り返す。


 ぽーっと歩いていると見つけた小さな雑貨屋。優しい香りを放つソレはどうやらアロマキャンドルと言うらしく、滑らかな手触り、丸みを帯びたアロマキャンドルはそのままでもほんのり香るが火をつけるとその香りは更に強まるらしい。
「コレ、クダサイ。」
「430エンデス。」
 白い箱の中がぱぁっと明るくなった。

 それからは可能な限りずっと火を灯し明るい箱の中で優しい香りと、共に過ごした。

 数日後、大切に灯していたキャンドルのロウが全て溶け切った。それと同時に暗くなる箱の中。大丈夫、また買えばいい。

 ここ数日、お気に入りのキャンドルはずっと売り切れだ。箱の中が暗い。明日のこと、今日のことすら何もわからない大きな不安と暗闇に飲み込まれてしまいそうだ。
 実物は無くなってしまったがキャンドルが入っていた空箱をひっくり返してみると商品番号らしき数字が並ぶ。
「19950421」
この数字を店員さんに伝えれば同じものを作ってくれるだろうか。

「スミマセン、19950421という商品番号のアロマキャンドルが欲しいのですが…」
「スミマセン、在庫なしです。あの子は一生に一度しか存在しなかったのです。」
 私は悲しくて泣いてしまった。

 昨日笑ったあの子も、今日泣いたあの子も、明日になればまたまっしろけな箱の中で1日を過ごす。誰にもわからない、”明日が来ること”を待ち侘びる。

 もしかしたら入荷しているのではないかと、いつもの雑貨屋へ向かう。
 残念。アロマキャンドルは今日も売り切れだ。
 私は悲しくて泣いてしまった。


 ー点在する白い箱のずーっと上には神が存在するらしい。白い箱の中に住む1人1人の上に、専属の神様が1人1人憑いているというのだ。ー

『見てみて、未来の私が笑っている。ほらほら今の私は泣いている。弱い私も変われるかな。明日になれば変われるかな。』

 半端な長さの前髪が1番鬱陶しい。ピンで留めるには短く、垂らしていると邪魔くさい。何度もピンをするりとすり抜けていく前髪を相手にしながら、勢いに任せてハサミを握ったあの時の自分にとても後悔している。今更言っても遅いけど。
 白い箱の中は暗くなる。
 ふと、「今を大切にして」という言葉が脳裏を過った。「今を大切にして」…ということは、あの日、勢いであろうが前髪を切りたくなった私は当時の「今」の気持ちを大切にしたのだろう。ならば、今の私がいけないのだ。後悔などするな。…うーん、「今を大切に」って、みんな言うけど、具体的にはどうするのが良いか教えてくれた人は居ただろうか。教師を名乗る人達が「今を大切に」を教える授業をしてくれたことがあるか。教えてくれたのは滅多に使わない、要らない公式ばかりではなかったか。 
 白い箱の中、空っぽの頭をくるくる回している。今を大切に…今を大切に…。

 教えてもらえなかったのなら、自分で探しにいこう。いつもの雑貨屋に無いのなら違う場所へ行けばいい。いよいよ私にもアロマキャンドルを探す旅へ出る時が来たのかもしれない。

 今日こそは、と信じては出会えず、また今日こそはと信じては出会えず。そんな日々を繰り返した。「今を大切に」その言葉を胸に抱きながら。


 ー点在する白い箱のずーっと上には神が存在するらしい。白い箱の中に住む1人1人の上に、専属の神様が1人1人憑いているというのだ。ー

『見てみて過去の私は泣いている。ほらほら今の私は笑っている。弱い私も変われるかな。明日になれば変われるかな。』


 連日売り切れのアロマキャンドルはどうやら販売中止になったそうだ。私はまたお気に入りのキャンドルを探す旅に出かけた。きっと見つかる旅に出かけた。

 あの日、私の箱の中を灯してくれたキャンドル。あのキャンドルには番号があり、一生に一度しか存在しないといった。あの炎は私に人生を教えてくれたのだ。二度と会えないのではない、一度会えたことに喜びを見出すのだ。今を大切に、今を大切に…。今を大切に生きるのだ!!!!

 箱の中は次第に明るくなっていった。

 ー点在する白い箱のずーっと上には神が存在するらしい。白い箱の中に住む1人1人の上に、専属の神様が1人1人憑いているというのだ。ー

『うんうん、明日こそは見つかるかしらね。』




重たい足取りが空気を変えた
私の人生あの子に何にも関係なくて
お気に入りのキャンドルは売り切れ

明日のことは何もわからない
今日のことすら何もわからない
商品番号19950421在庫なし
笑ったあの子も泣いたあの子も
明日になればまっしろけ
誰もわからない明日が来ること
アロマキャンドルは今日も売り切れ

見てみて未来の私が笑ってる
ほらほら今の私は泣いてる
弱い私も変われるかな
明日になれば変われるかな

半端な前髪がピンをすり抜け
あの時の私にとても後悔
今更言っても遅いけど
だから今を大切にして

今を大切にってみんな言うけど
具体的にはどうするの
教えてくれたのは
滅多に使わないいらない公式ばかり
空っぽの頭くるくる回して
アロマキャンドル探す旅に出た
今日こそはって信じて今日こそは

見てみて過去の私は泣いてる
ほらほら今の私は笑ってる
弱い私も変われるかな
明日になれば変われるかな

連日売り切れアロマキャンドル
販売中止でさようなら
またお気に入り探す旅に出た
きっと見つかるたびに出た


明日こそは

アロマキャンドル/いむいぱぴ子


もっと長編にしてもいいなって思える物語が書けました〜
短編だからちょっとわかりにくいかな、映画化したい…笑

本日も読んでいただき有難う御座います!

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