優先順位 一人芝居 戯曲
データ↑
あらすじ↓
価値観の話
本文↓
優先順位
暗転中
舞台上で虫を潰す音 パン
💡明転
「蚊がいて。みんなは刺されてない?この季節に珍しいよね。なんか、地球温暖化のせいで日本の気候帯が亜熱帯ぐらいまで、暖かい地域になったらしいよ。だから、ほら、デング熱をふりまいた――」
志田は話しながらスリッパでゴキブリを殺す
「ゴキブリがいて。みんなは見てない?東京だと、今や年中見るよね。北海道だとで出ないらしくて、むしろ珍しいんだってさ」
SE 蝉の声in
「だから北海道の人はゴキブリを見ても、悲鳴とか上げないんだって」
志田は素手で蝉を叩き潰す
SE 蝉の声out
「セミががいて。みんなの近くで鳴いていない?大丈夫?もしあれだったら、潰しに行くよ?」
「さて」
SE メトロノームin
「三種類の虫を殺たんだけど、あたしにとって、違いが無かった。見ていてどうだった?おおよそ、蚊を殺すことへ罪悪感を持つ人には会ったことがない。ゴキブリが嫌いな人には会ったことはあるけど、殺すことに反旗を翻す人には会ったことがない。蝉の命が七日であることに怒り悲しみ、延命戦と活動する人を見たことがない」
SE メトロノームout
「別の話をしよう」
志田はアリを踏む
「みんなは今まで何匹のアリを殺したことがある?数えてないかな。あたしは、今一匹殺したところだ。罪悪感は無いなー」
志田はアリの巣を見つける
「たくさん殺したらどうだろう」
志田はポケットから飴を取り出す
志田は巣から遠いところに飴を置く
間
志田はアリの行列を足ですりつぶす
「何十匹と殺した。罪悪感はこれでも薄い。無くはないけど」
志田は自動販売機で水を買う
志田は巣に水を流し込む
「アリは巣の中に何千匹といるらしい。このアリは、クロアリ。たぶん、それくらいいるだろう。罪悪感は薄い。何だったら、さっきの方が罪悪感はあった。恐らく、直接殺す瞬間を見ていたからだ」
SE メトロノームIN
「あたしは虫に関していえば、種類は罪悪感に関係しない。一度に殺す数もあまり関係ない。じゃあ、虫以外のカテゴリはどうだろう。初めは両生類に手を出した。その次は爬虫類。正直、この二種には差がなかった」
志田は籠からイモリとヤモリを取り出す
志田はイモリを潰す
「イモリ」
志田はヤモリを潰す
「ヤモリ」
志田は手のひらを見せる
「違いはありますか?」
「私にとって、虫も両生類も爬虫類も殺すにおいては、気持ちの差がなかった」
「魚類は食べ物。鳥類も食べ物」
「とうとう、私は哺乳類に興味を持った。小さい哺乳類、例えば鼠とかから手を付けようと、殺してみようと思った。実際に、ゴミ捨て場には張り込んで、鼠を見つけて、捕らえて、殺そうとしてみた」
「強烈なためらいがあった。結局殺せず、捕らえたところに返すことにした」
「その後も、いくつかの哺乳類を殺そうと試してみた。しかし、どれもダメ。猫も犬も兎も、罪悪感が勝ってしまう。ためらって、諦めてしまう」
「私は一個の仮説にたどり着いた。同類の生き物を殺すに際しては同種よりも異種の方がためらわれる、ということだ。実際に」
SE 0時の鐘の音
志田は両親の部屋へスコップを持って侵入する
「おかあさん?おとおさん?」
志田はスコップを振りかざす
志田はスコップを止める
「気づいた。気づいてしまった。哺乳類のみ、異種、同種、以外にも分け方があることに」
暗転
明転
志田は血まみれの服を着ながら死にゆく中での自分の気持ちをノートに書いている
志田は倒れる
暗転
明転
志田のノートが観客に見えるように置いてある
そこにはデカデカと
さいごに
怖い助けてごめんなさい
と書いてある
暗転
END
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