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死神 一人芝居 戯曲

データ↑
あらすじ↓
正義の話
本文↓

死神

葉はクローバーの鉢植えを持っている

「あなたの大切な人は誰ですか?私は、大切な人を守るために正義を行使します。そして、弱いモノの味方になることが正義であると言われ、育てられました。皆さんもそうでしょ?それとも、弱い者いじめは好きですか?」

葉は口に人差し指を当てる

「しー」

「クローバーの鉢植えです。あ、四葉がありました。運が良いのかも。皆さん、子供の頃、探したりしませんでした?四葉のクローバーを。いつけてどうしました?押し花にしました?お母さん、お父さんに見せるために摘みました?それとも、お金持ちになるために、財布に入れました?え?ああ、蛇の皮でしたっけ?お金持ちになるのは」

葉は葉をちぎり四葉を三葉にする

「私は。私はずっとこうしていました。あなた達のような人からクローバーを守るために。ひどい?摘む方がひどいでしょ?葉が一枚なくても生きていけるけど、摘まれたら、植物はそれまでですよ?」

葉は鉢植えを置く

「四葉と三葉って、どっちが弱いですかね?私は、四葉が弱いと感じます。目立ってしまい、群生地からピックアップされてしまうから」

葉は霧吹きで鉢植えに水を吹きかける

「変ですかね?そうですか。私も最近、気が付きました。あー、私って変なんだって?多くの人と、根本は一緒なんですよ。弱い者いじめはダメ。弱者の味方になろう。たどり着く結果が共感されないというか」

間「あっ、こんな事がありました。中学生の時、私のいたクラスでいじめがありました。加害者も被害者も名前は覚えてないんですけど。まあ、あって、あったんですよ。それで、加害者が上手なのと、被害者が臆病なのと、先生が聡くないのと、それら色々が重なって長引いたんですよね。始業式から半年くらい。私は、ほら、察しているでしょうけれども、正義感の強いほうなので、なんとかしたい、と思いました。ただ、この場合の弱者ってどっちかなって?その頃には、クローバーをちぎっていた私ではなく、成熟した私なので思慮を巡らせたんですよ、様々に。で、被害者は弱者なんですが、どうも加害者も弱者な気がして。モラルとか正義とか規律とか規範とか。何に照らし合わせてもいじめ、というか犯罪ですね、をしてしまう人も弱いのだなって。というか、可愛そうだなって」

「あ、皆さんは可愛そうな人を見たら、どうします?無視します?責めます?冷たくします?しないですよね?愛すべき友人が、そんなことしないですよね?」

「え?ええ。もう、私達、友達でしょ?こんだけ話したんだから。ねぇ。佐藤葉です。こんにちは」

「で、加害者も被害者も救うべきだなって、私の中の正義が叫びだして、結果、こっぴどく加害者をいじめることにしました。加害者は大人しくなりましたよ。で、その証拠を被害者に握らせました。三竦みを作ったんですよ。じゃんけん的な」

「じゃんけん知ってます?グーチョキパーのあれです。流石に、グーチョキパーのどれかが可愛そうとは思わないでしょ?」

「このとき、私は立場の違う二者を救う方法を見つけました。均衡を取るんですよね。すると、自体は沈静化する。まあ、いじめるのは心が痛みましたが、正義のためですから。正義感が強いので」

葉は鉢植えを見せる

「あ、ちなみにこれ全部四葉です。いま、四葉しか生えない種とかあるんですよ」

葉は鉢植えを抱える

「私はあることに気が付きました。弱者、可愛そうな人を救う絶対の方法を。年を重ねる中で、複数の立場が弱く見える、可愛そうに見えることが増えて、解決策が見えないときもありました。私の正義が死ぬ。正義が死ぬ。そう怯える時がありました。怯えが、人を弱くする。怯えている人が、可愛そうに見える。じゃあ、生命は何に怯える?生命は死に怯える」

「死んだら楽じゃん」

「ただ、人間をまとめて死なせる力は弱い私にはありません。だったら。だったら、せめて。友人だけは。もうちょっと頑張って、友人の大切な人だけは、早く救ってあげよう。って、気がついたんですよ」

「あなたの大切な人は誰ですか?」

END

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