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一人芝居 戯曲 鴎

データ↓

あらすじ↓
親子の話
本文↓
鴎になる

 

ゆうきは椅子に座っている

 

「え?ほんと?同じ表情のつもりだけど。もっと笑顔だった?そっか。こんな感じ?」

 

ゆうきは笑顔を作る

 

「ちょっと違う?そっか。じゃあ、こんな感じ?」

 

ゆうきは笑顔を作る

 

「えー。まだ違う?無理だよ、同じ表情は。モデルとかやっていないしさ。ほら、お父さんが思う私の一番の笑顔を投影してさ。それで、描いてみてよ。別に写実的にしなくても。それか、私の22年間の笑顔の要素を集めてさ。そうだよ、お父さんから見た私の笑顔の平均だって良いじゃん。コンクールに出すわけでもないんだから。ね。あ、お父さんの昔の作品だっら、海の絵が好きだったな。あり得ないくらい、真っ青な海の絵。正直、デッサンとか見ても上手いなって感じるけど、好きって感じなかった。海の絵は大好き。だって、あの絵を見た後に本物の海を見たけど、なんかがっかりしたもん。大きいだけで。あ、そういえば、あの絵の中に描かれている鴎も、かわいくて好きだったな。ーー。あ、ごめん。動きすぎたね」

 

 

「今日は6時までだって。外出許可は申請中。うん。そうだよね。え?そうだね。それまでに、私の絵は完成すると良いね。うん。それで、外出できたら、海の絵を描こうよ。私からのリクエスト。え?私も?分かった。二人で描こうね」

 

 

「大丈夫だよ。順調、順調。うん。幸せだよ。もしかして、お見舞いに来たみんなに聞いてる?やっぱり。お父さんは、自分の体のことに集中して。あと、やりたいことリストに集中して。他人にかまけていると、やりきる前に死んじゃうよ」

 

 

「え?なんだろう。鳥かな。お父さんも?鴎なんだ。あ、だから鴎の書き込みに気合いが入っていたんだ。でも、なんで鳥の中でも鴎?うん。確かに。世界中を飛び回っていそう。そうだよね、せっかく生まれ変わるなら、人間にはできないことをしたいよね。え?なんだろう。悩むな」

 

 

「え?ほんとだ。時間だね。すごい。私ってお父さんからみたら、こんなに幼く見えるんだね。嬉しいよ。じゃあ、今度のお見舞いの時に絵の具、持ってくるね。お父さんの部屋にまだあったよね?うん、持ってくる。一応、看護師さんに病室で絵の具使えるかは聞いてみるよ。うん。じゃあ、またね」

 

暗転

 

海の音

 

明転

 

ゆうきは海の絵を描いている

ゆうきは海に向かって話しかける

 

「私も鴎になりたい!」

 

End

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