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幸福な人生 一人芝居 戯曲

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幸福な話
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幸福な人生

概ね、死にたいな、って思いながら生きてきました。

三歳。最古の記憶。お母さんが泣きながら私を抱いている。
四歳。初めて生き物を殺す。部屋にいた黄色い蜘蛛。お母さんに死骸を見せに行くと怒られる。
五歳。引っ越し。母方の祖父母の家に行く。おじいちゃん、おばあちゃんが大好きだった私は喜ぶ。田舎は虫が多い。虫をたくさん殺すようになる。
六歳。お母さんの葬式。私は死に興味を持つ。死について考えるようになる。
七歳。人を殺してみたいという願望を持つ。
八歳。計画を始める。
九歳。モラルが身につく。おじいちゃん、おばあちゃん、ありがとう。
十歳。自分を殺すことは許されると気がつく。計画を始める。
十一歳。キリスト教の壁にぶち当たる。
十二歳。イエスを論破する。
中学時代。宗教を片っ端から論破する。
高校時代。いじめに合う。加害者を思いっきり殴る。殺す勢いで。思いっきり殴られる。死んだと思う。殴ったときの方は怖かった。私は私以外を殺したいとは思わない。そう気がつく。
大学時代。古今東西、あらゆる哲学者を論破する。自分が賢いことに気がつく。おじいちゃん、おばあちゃんが死ぬ。死にたくなる。好きな人がなった状態だ、きっと良いものだろう。
卒業後。世界一周する。価値観は変わらない。良い死に場所も見つからない。
就職。塾に勤めることに。子供は良い。ロジックで話さない。自殺を計画する。
結婚。死の理解を深めるために、生き物を作りたくなる。こんな私の話を面白がる同僚がいて、私も嫌いじゃなくて、結婚する。寂しかったんだと思う。でも死にたい。
子供ができる。子供に迷惑がかからない様に独り立ちするまでは死ぬことを我慢する。
子供が独り立ち。妻が病気に。こんな私といてくれた人だ。看取ろう。
妻が死んだ。子供をよろしくとさ。死ににくくなる。がんばろうかな。
孫ができる。自分の子供の方がかわいい。
子供が死ぬ。孫を育てねば。
孫が死ぬ。事故だったようやく死ねる。
好きな人が、大切な人が、死んでいった。きっと、いいことのはずだ。やっと死ねる。やっと死ねる。

私は幸せだった。

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