覚えている 詩

初恋の記憶。


西日差す幼稚園。


親が迎えに来ない。


二人っきりの僕と先生。


絵本を読む僕。


玩具を拭く先生。


集中しているフリ。


絵本の内容は覚えていない。


先生の顔は覚えている。


疲れきった顔。


オレンジに染まった顔。


目が合ってしまう。


絵本に目を戻す僕。


先生は喋る。


「お母さん遅いね」


僕は無視した。


静かな部屋を気に入っていたのに。


先生の声は好みではなかった。


大人の猫なで声は嫌いだ。


大人になって。


猫なで声を聞くと。


初恋の胸の温度を思い出す。


好きでもないその声で。

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