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額縁 一人芝居 戯曲

データ↑
あらすじ↓
空っぽの話

本文↓

額縁

みずきは絵を見ながら椅子に座っている

「この絵は、小学6年生の時に描いた、下の子達の絵です」

みずきは絵を体で隠す

「まだですよ。額縁に入れて完成するんですから」

みずきは表を下にして椅子に絵を置く
みずきは額縁を手に取る

「初めての挫折は、小学6年生のとき。私は長子で下が二人います。弟と妹です。その時、二人は5年生でした。あ、双子なんです。二卵性の。で、何の話でしたっけ?あ、挫折の話。そう、書道なんですけど、学校でコンクールがあって。二人は賞状をもらったんですよ。夏休みの課題で出した、読書感想文とか、絵とか、それらも賞を取ったんですよ。二人共。何を取ったかは覚えてないですけど。あれなんですよ。二人共、多彩で。たまに、学校で教えてくれる公募とかにも、よく出してて。で、よく賞をもらっては、式のたびに表彰されていたんですよ。凄いですよね。何の話でしたっけ?あ、私の挫折の話でした。ごめんなさい。話すの下手で。話しながら、あれも伝えなきゃ、これも伝えなきゃって、焦っちゃって。下の子達は、弁論大会とか、英語のスピーチとか話すのも上手なんですよ。私は全然ダメで、国語の時間の教科書の音読すら声が震えていましたし。今だって。何の話でしたっけ?あ、そうだ、挫折の話でしたね。どこまで話しましたっけ?あー、下の子達が優秀って所まででしたっけ。賞状をたくさんもらっていたんです。うちの家族、暖かいですから、それを壁に飾ることになって、額縁を買ったんですよ。で、6年生の終わりには、玄関とかリビングとか賞状がたくさん。誇らしかったです。中学生に上る直前。終業式で、下の子達が、また賞状をもらってきたんですよ。で、気がついてしまいました。私はなにも賞を貰っていないことに。急に恥ずかしくなりました。面倒を見ていた子達が、相談に乗っていた子達が、守っていた子達が、才能にあふれていて。私は凡人。親が私用の額縁も買っていたんですよ。でも、悲しいかな、ずっと空っぽのまんま。でも今日、飾ろうと思って。この絵を入れます。あ、なんでこんな話をしているかというと、克服できたんですよ!挫折を。下の子達への劣等感を!長かったですよ。今、私は二十歳なんですけど、そこまでずっと、劣等感、劣等感。二人は私より良い大学へ。奨学金まで勝ち取って。部活も、毎年、毎年、全国大会まで行っていて。一方、私は、お金くらいはと思いバイトに明け暮れて、大学のお金は自分で出そうと貯めて。まあ、二人は推薦で奨学金を貰って、結局家計に負担をかけずに大学へ行ったんですけど。劣ってますね、私。何の話でしたっけ?あ、克服した話でした。二人は死んだんですよ。留学先から帰る途中に飛行機が墜落して。まとめて、ヒュードーンって。壁を見てください!なにもかかっていない!母さんも父さんも二人を思い出すのが辛いからって、賞状は全て片付けたんですよ。だから、ガラガラ。ここに、二人の絵を、私の空っぽの額縁に入れて」

みずきは額縁に絵を入れて壁にかける

「寂しくないように掛けるんです」

「私は生きているよ。死んじゃったね。生き物として、私の方が優れてるね。あー、スッキリした」

みずきは伸びをして部屋を出る

END

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