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幸せを呼ぶツボ 一人芝居 戯曲

データ↑
あらすじ↓
偏見の話
本文↓
幸せを呼ぶツボ

豊の部屋
机にはツボとハーブ
床にはヨガマット

豊はコーヒーを持ってくる

「暑くない。夏にパーカー着て。冷え性だったっけ?クーラー消すから脱いだら?あーそう。あ、ごめんね紙コップで。インスタントのコーヒーで。え?捨てちゃったよ。うん。元カノのマグカップを大事に持っていたら気持ち悪いでしょ。そう。コーヒーセットもね。唯が好きだったからやってたけど、一人だと面倒くさくて。もっぱらインスタント」

豊はハーブを持つ

「良いでしょ。ハーブ。匂いもきつくないし、虫にも強いから、手入れも楽だよ。うん。新しい趣味。ヨガも始めたんだ。朝は動くと目が覚めるし。習慣にしようと思って。ん?二週間位かな。結構、立ち直ってるでしょ。心配してくれてありがとうね、唯。」

「え?このツボ?まあツボだよ。ツボ。趣味っていうか。まあそんなところ。気にしないで。花とかは入れないかな。ほら、ここ、穴が空いているし。え・いいじゃんまあ。あ、砂糖入れる?」

豊は砂糖を持ってくる

「実はさ、分かれた後に、ある宗教に入って。土羊っていうんだけど。新しい宗教なんだって。大丈夫だよ。そんなにお金も払ってないし。そりゃ、非営利でもさ運営にはお金必要でしょ?お世話になっているし。大丈夫だって。週二回の集会に行ったり、駅の周りでちょっと活動するくらいだから。訪問は新入りは付いて行くだけだし。だから大丈夫だって」

唯は煙草を吸い始める

「煙草を吸う時はキッチン行く約束じゃん。まあそうだけど」

豊は窓を開ける

「唯って月にどれくらい煙草を吸うっけ?二日で二箱くらい?じゃあ、月に十五箱か。箱で五百円として、じゃあ、七千五百円ね。会費は月一万円なんだよね。なんか、ちょっとした趣味みたいなかんじ。初月無料だし。社会人サークルの延長なんだって。集会は、決められた映画や本を見てきて感想を言い合ったりするだけだし。え?硫黄島からの手紙とかノルウェーの森とか。あと、信者の中にお花の先生がいて、華道の体験会したり。追加でお金いらないし。その先生にそのハーブを教えてもらったんだよね。ヨガもそこで習ったんだよ。いいとこでしょ?え?ゴミ拾いだよ、他にも海とか川のゴミ拾いもあるけど。遠出だとバス出してくれるし。任意参加だよ?訪問は、体調を崩した人の御見舞。一人暮らしだと、ほら色々と不便でしょ?ん?これ?五百円。プラスチックだし。キャラグッズみたいなのだよ。今の教祖係の人がさ、ちょっと新興宗教感を出そうと思って作ったんだよね。受注生産だから無駄にもならなかったし。うん、教祖は年数の長い人で持回り制。予算委員会もちゃんとあるよ」

豊は窓を閉める

「ほら、唯と付き合っている時はさ、仕事場と家の往復だったから。唯と別れてから、やることがなくなっちゃって。唯に本当、依存してたなって。一緒にいて退屈だったでしょ?趣味もない男とさ。だから、社会人サークル探して、行こうかなって。うん。社会人サークルのHPで見つけたんだ。初月無料だし行ってみたら、色んな人がいて、親切でさ。ほら、趣味も二つ見つかった。立ち直ったんだよ?」

「あ、ごめんごめん。自分の話ばっかりしちゃって。今日はどうしたの?え?良いけど」

豊は財布を取りだす

「この前、振り込んだお金はどうしたの?急に電話が来てびっくりしたよ。病気にでもなったのかと思った。今日元気そうで安心したけどさ。何に使うの?唯の力にはなりたいけどさ、一応貸す側だし、用途は知りたいなって」

「SNSで見たけど彼氏さん関係ある?」

豊は手を差し出す

「パーカー、預かるよ」

「相談だったら、のるよ?あ、信者の中に弁護士さんがいて紹介もできる――」

唯が大声を出す

「ごめんて。疑ってないよ、心配だからさ」

唯は急に部屋を出て行く

「待って」

豊は机にぶつかりツボとハーブを落とす

「あ。あー」

🔈ドアの音

豊はツボを拾う

「全然役に立たないじゃん、このツボ」

END

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