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守護霊 一人芝居 戯曲

データ↑
あらすじ↓
運の良い話
本文↓

守護霊

歩は墓参りをする
お供えする
歩は墓まりをする
お供えする
歩は墓まりをする
お供えする

「さて、何をしていたと思いますか?そうです、墓参りです。え?そうですよ。三つ連続で。え?あー、親類の墓が並んでいるわけではありません。一人も知りません。ええ。そうですよ。知らない人のお墓です。変ですか?そうですか?悪いことではないですよね?この行為が。きれいになっているし。お供えしているし。ねえ。あ、大丈夫です。選んでます。全然人が来ないお墓を。家、近いんですよ。散歩コースで。家から駅の方に歩いて行って、見通しの悪い横断歩道を渡ると、もうこの墓地です。あ、聞いてください、その横断歩道、この市の中でも有数の事故現場らしいですよ。なんかねぇ。嫌ですねぇ」

歩はお供えのお茶を飲む

「え?飲みますよ?もったいじゃないですか?彼女は大野真澄さん。若い頃は看護師で、患者さんから大人気。優しい世界を目指して、自分の目の届く範囲は、と献身的に定年まで働きました。後輩達にも親切で、慕われていて、彼女の意思は引き継がれています。あ、たまたまですが、彼女は生まれた病院で息を引き取りました。彼は尾野康さん。ただし、小さいの方じゃなくて尻尾の方の尾野康さん。隣が大野さんなのにね。彼は、人生を通して、コツコツと積み上げていく趣味を持っていました。最初は駅。小学生までは、日本中の駅について調べて、親との旅行も、観光地ではなく、ローカル線のほうが楽しかったぐらい。で、中学生の時は三回の夏休みを利用して、日本中の駅を写真に収めた。すごいですよね。でも、やりきっちゃったみたいで、高校では別の趣味を持ちました。ジグソーパズルにハマって。その後も、やりきったと感じちゃうと別の趣味を見つけます。プラモデルとか。切手集めとか。とかとか。死ぬ間際には、原点回帰、また駅に興味を持って、自分が行っていない駅と、なくなった駅を訪れて回って、達成して死にました。そこはペロ。犬です。雑種。ミックス」

「まあ全部、想像ですけどね」

歩はお供えの饅頭を食べる

「え?もったいないでしょ?良い趣味でしょ?考えてくださいよ。死んだあと、自分のお墓を。誰も来ないことを」

「寂しくない?」

歩は饅頭一個を除いてお供えを回収する

「え?もったいないでしょ?」

歩は歩き出す
歩は饅頭を忘れたことを察する
歩は歩きながら袋をガサゴソする

「あれー。忘れたかも。もったいない」

🔈ブレーキ音
🔈クラクション

「あ」

歩は車の方を向く
歩は正面を向く
歩は笑う

END

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