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二人芝居 戯曲 長生き

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長生き
唯の部屋翔は額縁をもって立っている
薄明りON
翔「人が死ぬのはいつだろう。概ね心臓が止まった時でいいと思う。というか、それは本人次第で、他者の主張が割り込めることじゃない」唯「ただいま」
明かりON
翔「俺はまだ生きている。この絵の中で。誰が何と言おうと」唯「疲れた」
唯は音楽をかける
翔「彼女も望んだことだ。俺が、死にたい、と言ったら、いいよ、と背中を押してくれた」
♪着信
唯「はい?」翔「そんな彼女だから、そんな彼女を、俺は好んでいたし、生きたい理由になりかけた」唯「ん?家着いたよ。え?今日?いいよ」翔「無理だったけど。彼女は俺に絵を描かせて欲しいといった。死ぬ前に一枚」唯「(鼻歌)」翔「その時、彼女は、絵をかきながら」
唯は絵を見る
唯「死なせてあげない」翔「そう言っていた」
♪チャイム
唯「はーい」翔「彼女は覚えていないかもしれないけど」唯「適当に座って?」翔「俺が生きているなんて微塵も思っていないだろう」唯「お酒、何飲む?白赤?白ブドウ?赤ブドウ?はーい、ビールね。ん?上機嫌!来てくれたから。のも」
唯と誰かはお酒を飲む
唯「おいしい?私?もちろん」

唯「テレビつける?何かやってるかな」

唯「明日、どこ行く?私が行きたいのは――」
唯は誰かとキスをする
暗転明転
翔は誰かのところにいる
翔「え?」唯「キープ、その顔!」翔「は?」唯「その顔!驚いた顔が描きたいの」翔「この顔?」唯「あー崩れちゃった」翔「無理だよ」唯「えー。でも、生きている顔が描きたいし。頑張ってよ」
唯はびんたする
唯「キープ」翔「はい」
唯はスケッチし始める唯はスケッチを破る
唯「やっぱりさっきの顔がいい」
唯はキスをする
暗転明転
唯の部屋翔は額縁に戻っている
唯「早く寝る?明日のために?」翔「彼女は俺が絵の中で生き続けているのに気が付いていない。彼女が描いたのに」唯「お風呂入る?」翔「彼女が描いたのに」唯「朝でいっか。カギ閉めたっけ。見てくる。先に布団に入ってて。すぐ行くから」翔「絵って死ぬのかな。どうだろう」
唯は奥の部屋に行こうとして絵を見る唯は絵に近づく唯は絵をなでる
暗転明転
翔は額縁から出ている唯は翔の首を絞めている
翔「やっぱだめだよ。犯罪はさせられない」唯「私に殺されたいんでしょう?」翔「そうだけど」唯「私に殺されたいんでしょう?」翔「理由って聞かないよね?唯は。死にたがる理由」唯「聞いてほしい?」翔「いや」唯「じゃあいいじゃん」翔「自分で死ぬから」唯「そう」
唯は翔の首から手を放す
唯「でも。覚えておいてね」翔「え?」唯「私は君を死なせないから。死なせてあげないから」翔「無理だよ」唯「本気だよ」
暗転明転
翔は額縁の中にいる
唯「え?この絵?大好きな絵。私が描いたの。生きているんだよ?」
唯は絵をなでる
唯「眠くなっちゃった。早く寝よ?」
唯は奥の部屋に行く唯は部屋に戻ってくる
唯「おやすみ」
唯は部屋の電気を消す
暗転
額縁が落ちる音
END


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