君痣 詩
湯を沸かし、インスタント珈琲を淹れる。
彼女と付き合うまではして来なかったこと。
紅茶のほうが好きだった。
寒い中、窓を開ける。換気だ。
鼻炎気味の彼女のために身に付けた習慣。
1LDKの部屋で静かに僕がいる。
彼女はいない。
彼女のモノもない。
キレイに何もない。
引きづりやすい僕のことを思って、何一つ痕を残さなかった、優しい彼女。
窓を閉めて、カギをかけて、カーテンを閉める。
マグカップの珈琲から湯気が立っていて、僕の眼鏡を曇らす。
ここ数年はコンタクトレンズで生活をしてきた。
ここ数か月は彼女の好みに合わせて眼鏡をかけて生活をしてきた。
「いただきます」
誰もいない、部屋に生まれた挨拶。
礼儀正しい、彼女の癖が移った言霊。
珈琲を飲む
息を吐く。
息が白い。
まだ寒い部屋の中で僕は一人で独り。
彼女は僕の中に息づいている。
僕の中には彼女の痕が残っている。
一挙手一投足、全てが彼女によって変わった。
毎日毎時毎分、彼女がいるだけで幸せになった。
色でいうと空色。マーブルな空色。
寂しさに耐え切れず、壁を優しく小突く。
反対側から、壁を二回、小突かれた。
君も同じ気持ちですか?
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