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おかあさん、いつ天国に行った?

「おかあさん、いつ天国に行った?」

昨日モモちゃんが
突然、尋ねてきた。

「そうね、いつ行ったと思う?」
と私は返した。
「わからない」とモモちゃんは言った。

亡くなった日も、
お葬式の日も、
モモちゃんは覚えているはず。
でも、
そういえば口に出したことはない。

母が亡くなってしばらくは、
「新しいお母さん、買ってきて」と言っていた。

今年に入ってからは
「新しいおかあさんがいいの、今度は天国にいないおかあさん」
と、つぶやいていた。

モモちゃんが
「天国」と母とをつなげたのを聞いて、
私は、
一歩、進んだんだなと思った。

母はいま、天国にいるんじゃないだろうか。
そう考えるだけでも、
モモちゃんにとっては、
とってもしんどいことにちがいなかった。

私やモモちゃんのように、
子育てが終わったくらいの年齢なら、
多くの人が
自分自身の親とのお別れがあったとしても、
それは仕方がないと覚悟ができていると思う。
でも、モモちゃんには、それがなかった。

「おかあさん、帰ってくるか?」
「どう思う?」
「おかあさん、ほしいね」

最近になって、
私とモモちゃんは
そんな会話を交わしている。
最近のモモちゃんは、
母のことを話すとき、
イライラ、ヒリヒリしなくなった。

そして昨日言ったのが
「おかあさん、いつ、天国に行った?」だった。

モモちゃんの心の中で、
おかあさんは、
すでに天国へ行っている。
イライラ、ヒリヒリすることなく、
「もう行っている」ことが前提になっている。
たぶんもう「帰ってこない」…

ついに行ってしまったんだ…

母が亡くなったことについて、
私は一度も口にしていない。
モモちゃんは、
少しずつ少しずつ
「本当の今」を手探りして、
ようやく認めたんだな、
長くかかったけれど、
認めることができるなら、
そのほうが心は軽くなるんじゃないかな。

モモちゃんの目は、
日に日に、
見えなくなっているように思える。
怖がって、
家の中でも前に進めなくなることがある。

外出先では、
ヘルパーさんがモモちゃんの手を引いて、
誘導していることがよくある。
ほとんどが車椅子移動だけど、
車椅子を降りてソファなどに座ることもあるから。

でも、うちの中で、
私はモモちゃんの手を引かない。
手を引いたほうが早いとわかっていても、
壁やドアなどを
モモちゃんが自分で伝って歩くのを待つ。

壁やドアなどが見つからない様子なら、
どこに壁やドアがあるか説明する。
壁やドアを
コンコンと叩いて誘導したりする。
モモちゃんがしんどがって、
歩くのをやめて、
ハイハイすることもあるけれど、
気にしない。

私が手を引けば、
モモちゃんは手を引いてもらわないと、
歩けなくなるかもしれない。
それでは
この先、一緒に暮らしていけなくなるかも。

母がどこへ行ったのか、
モモちゃんは
誰に教えてもらうことなく、
自分で答を見つけた。

モモちゃんには、できることがたくさんある。

がっかりは減らして、
しっかりを増やしていこう。

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