見出し画像

キズつけないで、上手にダマして

何とかスムーズに
おでかけできるようになってきたモモちゃん。
でも、
とにかく暑いため、
帰るころには気が立っている。

「おにぎり、つくってちょうだい!」
うちに戻って、
私もヘルパーさんもクタクタなとき、
モモちゃんから即座にリクエストが入る。
おなかがすくタイミングなので、
休憩するヒマもなく、
おにぎりをつくる準備を始める。

モモちゃんは
いつも必ず3つ食べたがるので、
ヘルパーさんに小さめのを3つ頼んだ。
そしたら、
1つ目を食べ終わってすぐ
「おにぎり、いらないったら、いらない」
と言い始めた。
明らかに、キゲンが悪い。
モモちゃんはそのまま、自分の部屋に帰ってしまった。

おでかけそのものはスムーズだったけど、
たぶん暑さで、
グロッキーなのだろうと思った。
それでも、
ヘルパーさんが3つぶん準備したのに…
と思うと、気分がモヤモヤした。
ほんの些細なことなのに、
モヤモヤするのは、
私自身も暑さと疲れで、
キゲンが悪いのだろう。

モモちゃんとのおでかけは、
スムーズになったとはいえ、
今もストレスフル。
電車の中では、
周囲を手でさわって確かめたがるため、
この日も車椅子から大きく乗り出して、
ポールをつかもうとしたけれど、
ポールのすぐそばに人がいて、
手がその人に当たりそうだったので、
私が間に割って入ったら、
モモちゃんが怒ってしまった。

電車の中で、
知らない人の手が体に伸びてきたら、
ほとんどの人は気持ち悪いだろう。
エレベーターでも同じように
トラブルが起きないようにと
神経を尖らせているため、
とっても疲れる。

晩ごはんの時間がきて、
お好み焼きを半分食べたモモちゃんが、
お好み焼きを残して、
「おにぎり、つくってちょうだい!」
と言い始めた。

ここで優しいお姉さんなら、
「はいはい」と対応するのだろうけど、
私は頭に血がのぼってしまった。

「昼間はおにぎりを残し、
夜はお好み焼きを残して、
わざわざまた
おにぎりをつくれっていうの~?」

…と言いたいのを飲みこんで、
私は黙っていた。

モモちゃんはまた、
「おにぎり、つくってちょうだい!」
と言った。

私はモモちゃんに
「おにぎり、品切れです」と言った。

よく考えて言ったのではなくて、
心の中で
「怒っちゃだめ、怒っちゃだめ」
「怒りそう、怒りそう」
と、せめぎあっているうちに、
口に出てしまった。

モモちゃんは驚いた顔をしていたが、
「おにぎり…品切れです」と言って、
部屋に去っていった。

私は悲しくなった。

世の中の大半の妹は、
同じような場面で、こんなふうに言うだろう。
「お姉ちゃん、
品切れって何よ。
つくりたくないなら、
そう言ったらいいじゃないの」とか、
「お姉ちゃん、
何が品切れなのよ、もういいよ」とか。

モモちゃんは、
あっさりとダマされてしまう。

前に読んだ記事で、
認知症の高齢者さんのお世話をする
施設のヘルパーさんの話を思い出した。

認知症の高齢者さんが、
「うちへ帰りたい」と言い始める。
「おうちはもうないよ」とか「おうちはここだよ」
と言っても納得しない。
ひとりのヘルパーさんが
「じゃあ、おうちに帰りましょうか」と言って
家のあった周辺まで車で走った。
その間、
認知症の高齢者さんはヘルパーさんに、
自分のお父さんやお母さんの昔話を聞かせた。
しばらくしてヘルパーさんが、
「帰りましょうか」というと、
施設のほうに帰ったのだという。

「家はもうない」などと事実を言ったり、
「もうおにぎり、つくりたくない」とキョヒったり、
そういうふうだと、
認知症の高齢者さんも
モモちゃんも、キズついてしまうのだと思う。
事実であっても。
当然の成り行きであっても。

キズけられるくらいなら、
上手にダマしてもらったほうがいい…

本人がそう言ったわけじゃないけど、
事実かどうかじゃなくて、
キズつかないほうを言ってほしい、
そんな感じなんだろうなと思った。

ダマしちゃったと思ったとき、
こっちが悲しい気持ちになるのは、
どうしたらいいのか?

ドラマとかマンガとかに
逃げ込んで、忘れようかな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?