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知らぬが大仏

ごくたまーに、
うちの家族構成について
尋ねる人がいる。

モモちゃんが自宅で暮らしているとわかると、
「お姉さんと、お二人暮らしですか」と尋ねられる。
「私の夫と三人暮らしです」と説明すると、
「そうですか、だんなさん、いい方ですね~」と、
とっても素直な感想が返ってくる。

「いい人じゃねーよ」と言うつもりはない。
いい人じゃなくなってしまうと、とても困る。

ただ、
「いい」だけじゃないので。

外から見ているだけならばという条件付きで
「いい人」なだけですから。

モモちゃんを美容院に連れていった日、
帰宅した家族くんに、
私はそっと耳打ちした。

「モモちゃんに、美容院の話、しないでね。
美容院って聞いただけで…コレだから」

私は頭に両手の人差し指を立てて、
ツノを出すポーズをした。

家族くんが
「言わないほうがいいんやね、
言わないほうがいいんやね、
でも無反応でいいの?
すっきりしたねとか、
かわいいとかそういうの、言わなくていいの?」
とアタフタしていたら、
モモちゃんが部屋から出て、
近づいてきた。

今はよく知らないけど、
私たちが若かったころ、
美容院で髪型を変えたのに、
気づかない男の人なんてダメ、
というのが常識だった。
「なんか一言、なくていいのか」と、
家族くんがとまどうのも無理はなかった。

私は面倒くさくなったので、
「モモちゃん、今日すっきりしたね~」と
家族くんの前で話しかけて、
それで終わらせようとした。

すると家族くんがモモちゃんを
まじまじと見て、こう言った。

「へえ、大仏さんみたいになったね」

出た。
出たよ。
出ましたよ。

ちなみにモモちゃんの髪型は、
「ショートボブ」ですから。

モモちゃんは自分の髪型について
とくに興味がなかったらしく、
テレビ番組の話を一方的にしたあと、
自分の部屋へと去っていった。

「あのお」と私は切り出した。
「えっとお、
私の妹に言うのは、別にいいんですけどお、
美容院に行った直後の女の人の髪を見て、
大仏さんみたいっていうのは…
ほかの人には、
やめておいたほうがいいかと…」

家族くんは笑って、
「そう? かわいいやん」と言った。
「国宝やし」

そういう問題じゃないだろう。

モモちゃんのコミュニケーションは、
相当ずれているけれど、
家族くんのコミュニケーションも、
ずれている。
私はというと…
マトモかどうか自信がない。

この家では全員がずれていて、
それで何とか、
平和が保たれているのかもしれない。

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