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心の小鳥を飛ばして。ー大人になってからのインターンー

5月の半ばの4日間、東京の小さな本屋にお世話になった日々を振り返る。国立市にある、谷保という町。実家が調布市にある私は、存在を知ってはいたものの、特に降り立つ用事も思い出せる思い出もない町だった。
そんな谷保駅から徒歩5分ほどの「小鳥書房」という本屋で、私は4日間「インターン生」となった。

なぜいまここに

「インターン」という言葉は現代において、本当に幅広い場所・場面で使われている。一般的には就職活動、私の本業の仕事で運営しているインターンは地方地域に滞在する交流プログラム。小鳥書房がやっているという「インターン」とはどういうものなのだろう。普段から扱っている言葉だからこそ、行く前のイメージは意外とぼんやりしていた。

そもそも小鳥書房さんを知ったのは、京都のhoka booksさんが発行している「たやさない」というマガジンの中でのこと。2月の旅先で買い、その場で読んで、店主落合さんの文章やお店をやるスタンスを綴る言葉にぴん、とくるものがあった。3月に実家へ帰省したタイミングで一度訪れ、お店の雰囲気やインターン制度があることを知った。

4月が始まり、「週3~4でフルリモート」という新しい働き方に変わった私には、久しぶりにできた頭と心の余白に、今こそ新しいこと・小さなチャレンジを入れよう、という前向きさがあった。この頭と心の余白は、1~2年前からもやもやしていた私がやっとつくったものだ。夏以降はまた新しいプロジェクトやらイベントが始まってしまうかもしれない。思い切って5月にインターンを申し込んだ。

こちらが代金をお支払いする形だということ、その金額、内容の幅広さ、、、どれも踏み出すことや期待の度合いにちょうどよかった。店主さんはすぐにお返事をくれた。「明日からでも来ていいよ!」という声に驚く。
そんな風に始まって「インターン生」として小鳥書房に通った5月半ばの4日間は、一気に初夏がやってきたような暑さの日々だった。少し暗くてひんやりした小鳥書房の店内で、前からいたような気分でいろいろな人と話したり作業をしたりしながら、ふと今ここにいることを不思議に思うのだった。

金曜日の本屋バー「良夜」の時間はこの暗さに

出版という仕事

小鳥書房さんでインターンをしようと思った決め手は、もともと出版業をやっている人だということだった。「面白い人が集まる本屋の店員」という意味では、学生時代にツルハシブックスのスタッフをやっていたこともあり、私にとって特別新しいことではない。興味があったのは、私がこれから勉強したいと思っている「出版」や「本の編集者」という仕事だった。小鳥書房が出版した「ちゃんと食べとる?」という本も数年前に買っており、こんな素敵な本を出しているという信頼感もあった。

ここ半年、ずっとひとり出版社関係の本を読んだりトークイベントを聞いたりしていた私は、その魅力や面白さを感じながらもどうしても「怖さ」をぬぐい切れずにいた。未経験から始める怖さ。良いものをつくれるか分からない怖さ。そんなことも分かってないやつが入って来る場所じゃない、と言われそうな怖さ。
その漠然とした怖さはたぶん、本やトークイベントと言った大多数に向けた発信向きの言葉以外で、もう一歩踏み込んだ何かを受けとらなければぬぐえないと思った。怖さが一ミリもなくなることはないとしても、その怖さの解像度をもっとあげたい。

今回のインターンという制度を私は、「店主さんを一定時間ひとり占めできる」「店主さんの日常の仕事を横で見られる」とも読み替えた。直球の「ご相談」ではなく、「お手伝い」という役割もあるからこそ、私が知りたい細かいところが知れるのではないか。そんな風に思った。
なかなかインターンの受入れという形で学びの場をつくっているひとり出版社さんはいないので、とてもありがたかった。

一次情報の渦の中へ

インターン初日、3日前から泊まっていた実家で朝から母とけんかをしてしまい、ざわついたまま電車で谷保に向かったのを覚えている。途中、分倍河原のマルジナリア書店さんに寄ったら、とても良い本屋だったのでそれでちょっと落ち着いた。

小鳥書房のドアは小さく、中がそこまで見えない。ドアの前でそわそわしながら待っていると、かよさんが出てきて開けてくれた。
インターン生らしく、まずは開店準備をお手伝い。二階はまちライブラリーになっていて、向いにはシェアハウスもある。アーケード内の「ダイヤ街商店街」もローカル感満載なお店が多いし、話を聞いているとなんだか東京じゃないみたいに思える。新潟と似ている感じ。だから居心地が良いのだろうか。

お店の空気、町の空気。かよさんの空気。小鳥書房の日々を一言で振り返るとするなら、画面や紙面の向こうではなく直接ふれる「一次情報の渦の中」だと言える。同じ言葉でも、かよさんの口から直接聞くということ、それが目の前の私に向けられたものであること。その強さは私の中にしっかりと残っている。1日ではなく4日にしたことも、その言葉や空気を私の中に残すことにつながったと思う。「日」ではなく「日々」だったことで、少しだけ日常の中にお邪魔できたような気がした。

1日目は比較的静かに作業、2日目はお客さんが何人か来て話し込んだり、夜ごはんに近所の焼き鳥やさんに行ってかよさんにいろんなことを教えてもらう。3日目は昼間は雨で静かに作業。夜は23時まで本屋バー「良夜」で盛り上がる。4日目は少し町を歩いたり、また違う人たちとしゃべったり。
本当に情報の多い日々で、毎日受け止めたものへの考えを進めてしまうとパンクしそうになるので、とにかく受け止めて自分の中にひとまず入れる、という作業をしていた気がする。かよさんの口からさらっと出る出版用語、初めて読んだオカルト漫画、公園で食べたアイス、店で流れる音楽、スタッフことねちゃんのラジオ、雨の中イベントから帰る途中で友人とまんじゅうを食べたこと、交わされた会話、会話、会話。

仲間のような

「仲間」という言葉は少し前だったら少しださい気がしてあまり使わなかったかもしれない。でも、最近、「友達」でも「知り合い」でもなく「仲間」という言葉がニュアンスとしてしっくりくる人が何人もいる気がしている。「同志」にも近いがこれだと少し重い。感覚的なものを共有していたり、同じものを好きだったり、ひとつのものに一緒に取り組んでいたり、いつか一緒に何か作りたいと思う人だったり。

小鳥書房の4日間で、たくさんの人に出会った、話した。はじめましての方ももちろんたくさん、久しぶりに会いに来てくれた友人やずっと話してみたかった人も。1週間の東京滞在も含めると、妙蓮寺の生活綴方さんやマルジナリア書店さん、文学フリマで会った人達もそうだ。

仲間だなんておこがましいし、勝手に、一方的に思っているだけかもしれないけれど、この日々で出会った人を思い出したときに、私のなかで仲間という言葉が浮かんだ。今は同じところにいないけれど、言葉じゃ説明できないけれど、空気感や物腰からうかがえる、本に対する・社会に対するまなざしに愛と意思があり、そして日々の生活や仕事がある。それぞれで戦っているし、もしかしたら広い意味では一緒に戦っているのかもしれない、と。

年齢や段階、距離感がそれぞれ違っても、そんな風に想える人たちが東京で、谷保で、ちゃんと生きていることはこれからの私をささえる気がした。

心の小鳥

あの日々からすでに丸二週間が経つ。たまっていた仕事や日々の用事に追われ、次の週には富山のBOOKイベントにも行き、ばたばたとしてしまった二週間だった。小さな焦りが何度か浮かんでは消える。

私は、「まだ」つくりたいものをつくれていない。

そのことが焦りにつながってしまうのはなんだか違うんだろうと思いつつ、つくりたいものがあることを忘れないようにすることは今の私には大事だと思う。

ここで言う「つくりたいもの」「やりたいこと」というのは、夢とか憧れ、みたいなキラキラしたイメージではなく、人生を進んできた今、やっぱりこれなんじゃないかと胸の奥にあるものをなんとか捕まえた、みたいな感覚。志、に近いのかもしれない。

小鳥書房での日々は、その胸の奥にある「これだ」というものを、知識や情報という点でも、マインドや精神という点でも、ぐっと前に押し出してくれたような気がする。厳しさも怖さも、ちゃんとあった。あったけどやる。スケールや仕事の割合など形は未定だけど、やっぱり私は本をつくりたい。

本が大好きで図書室に入り浸っていた中学生時代、私の家では小鳥(白文鳥)を1羽飼っていた。世界を物語のようにとらえがちだったあの頃、最終的に窓から飛んで逃げていってしまったうちの小鳥のことがけっこうずっと忘れられなかった。

本を広げればすぐに別の世界に飛んでいけたあの頃の想像力。時代を感じ取り、採算も考えなくてはいけない今とはまた違うけれど、あの頃があったからこそ今私は本をつくろうと思えているんだろうと思う。そのことを50歳や60歳になるまで思いもしないくらい別の仕事に一生懸命になる人生もあったかもしれない。別にそれでもいいんだけど、そうならなそうだ。逆に、最初から出版社に勤める道もあったかもしれないけど、そっちにもならなかった。

そんな私がこれからつくる本はどんなものなのだろう。どんな形で本に関わるのだろう。まだまだ本当に分からないけれど、たしかに今、あの日々がつくってくれた希望のような小鳥が私の心の中にはいて、日常をとりまく言葉や環境、自分自身の弱さにくじけそうになっても、心の小鳥を飛ばして胸の奥のものを信じながら生きていこうと思った。
 
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小鳥書房で出会った皆さん、かよさん、4日間、本当にありがとうございました。すごく楽しかったし、勇気をもらえたし、大人になってからもこんな風に学びにゆける場があることが希望です。
新潟で何かしらのコラボができるように頑張ります!

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