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尾根をゆく

 1,2月の冬が厳しくなかったので油断していたら、とっても寒い日々が続いた3月。さすがに先週くらいからは春の陽気になってきた。

 3月は新しくつくっている雑誌の編集に集中できるかと思いきや、5年間続けた行政から委託されている事業が公募となり、急きょ企画提案書やらプレゼンやらの予定が舞い込んできた。私が契約社員として続けている仕事のメインがこの事業なので、これが次年度から無くなると、私はやる仕事がだいぶなくなってしまう。それはそれで面白い展開なのかもと思いながら、だからといって目の前の仕事をないがしろにするのは違うと思った。特に、今年度担当の職員さんが「とてもいい事業だと思うのでぜひ続けてもらいたい」と伝えてくれてからは。

 プレゼンはずっと苦手意識があるし、企画提案書も膨大な文章(しかも的確に漏れなく、説得力のあるもの)と向き合わなければならない。上司にたくさんチェックを入れてもらい、プレゼンも何度も読み上げて練習し、いざ審査会へ。(古民家に置きっぱなしだった着なれないブラウスを着たら、プレゼン前にカメムシを発見するハプニングが発生してちょっと和んだ)

 大きなミスもなく無事にプレゼンは終了。制限時間内に言いたいことをすべて言わなくてはならない緊張感に、終わり間際からお腹がひりひりと痛かった。終わって何度も息を吐きだしながら、久しぶりに「自分の成長している感」に気持ちが高揚していた。気がつかずにやっていた自分の文章の良くないクセに気づいたり、原稿をつくって練習するという単純な努力が素晴らしいことに気づいたり。「採択されないかもしれない」というプレッシャーが、こういった短期間での気づきの多さにつながったし、成長感にもつながったんだと思う。そして、「絶望を感じるほど無理な壁の高さ」じゃなかったことも大きい。毎晩寝ずにやっていたなんてことは全然ないし、手を出してくれる上司には大いに甘えたし。まあ、悶々とする時間も多くて大変ではあったけれど。

 自分は「ほんの少し高い目標」にトライするのは得意かもしれないと思った。「ほんの少し」というのがポイントで、例えばそれは道筋(具体的に何をすればいいか)や誰に頼ればいいのかということが見えることだったり、だいたいの期限が決まる(決める)ということだったりする。

 ふと、今つくっている雑誌の座談会企画で先輩方が話していたことを思い出す。「小さな山を超えたら、山の超え方が分かるからね」「進んでみなきゃ見えないことがあって、その繰り返し」。少しだけ高い山を登って、登ったら見えたさらに少し高い山を登って……そうやって気がついたら、ずいぶんな高さまで来ていたな!とあとから分かるみたいなこともあるのかもしれない。そうだったらいいなと思う。

 人生の進み方のタイプを「山登り型(目標を決めて逆算する)」と「川下り型(分かれ道が来たら選ぶ)」に大きく括っていたけれど、きっとこれはそのどちらでもない。「山脈型」というか、「尾根」型というか。連なる山々を徐々に進んでいくような、そんな感じなのではないか。
 私の場合、その山のひとつひとつが分かりやすい「給料の高さ」や「○級の資格をとった」ということではないから見えづらいだけで。でも、どの山脈を登っていこうか…ということはそろそろ考えて進まなくてはならない。今決めた小さなベクトルの角度が10度違うだけでも、10年後には大きな違いになっているかもしれないのだから。すでにそう感じることがある。浪人を迷った私、休学先を選んだ私、進路を選んだ私……最近話した同世代が、「大学までのプロフィール・原材料となる性格は似てそう」だけどその先の環境が全然違い、人となりも思考もここまで私と違うか~と思ったことがあって、それも近い話かな。結局なるべくしてなるというか、合う合わないでまた山を下りたりもするだろうから、その選択に大きすぎるプレッシャーを感じる必要はないけれど。

 これまでは、主に川下り型のつもりで進んできた。「将来的に何につながるか」はそこまで考えずに、今の自分の直感が指し示す方へ手を動かし、足を動かした。だからこそ、いろんな経験ができた。つながりも増えた。基礎体力や、自分を知ること・守ることも身につけた。でも、あっちの山小屋に顔を出し、こっちの山の花を摘み……とそこに分かりやすい一貫性や強い意思はなかった。だから一度立ち止まったとき、混乱した。

 たぶん、まずは目の前の小さな山に集中すればいいのだろう。「これまでやってきたことはなんだったんだろう」「早く活かさなければ」「早くスキルを取りに行かなければ」と思ってしまうけど、意外とまだ時間はあるし、時間が導いてくれることもある。これまでの私がしてきたことの伏線回収はもっとゆっくりされていけばいいし、今日できることはそんなにない。1mでも先に進むだけ。目の前の石をどっち踏めばいいかな?と考えるだけ。

 力を入れたり抜いたり、どっちも大事。来期のドラマを楽しみにして、友達との電話を楽しみにして、美味しいデザートを食べに行くのを楽しみにして、ときどき、山をひとつ上った時にしか感じられない喜びを得られたら、もうそれだけで充分だ。

あきちゃんの送別会の食卓にて



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