交流1

私たちとケンジの交流が始まった。そもそも彼には面会に来る人が無く、自分と今日子が面会に来ると言う事の流れを職員が簡単なイラストで説明したという話であった。本人も理解したという事であったが、はたして5歳児がどこまで理解できたかは謎だが、現実は行政の決めた幸せ家族計画の道筋通りに事が進んでいる様であった。以前たまたま知り合った20歳位の施設出身の男性と話す機会があったのだが、その時私は初見であったにもかかわらず彼にこう聞いたのだった。親がいないってどういう気持ち?かなり失礼な質問だと思うが、彼は素直に答えてくれた。生まれた時から両親がいないんで、そこはなんとも思わないですね、施設長が両親みたいなものなので。彼は整った顔だちを乱す事なく冷静にこう答えてくれたのだ。全身入れ墨の彼が想像以上に大人であり自立していた事が印象的であった。行政としては施設から里子に出し家庭に入ることが幸せであるという見解であるがはたして我が家はどうなるのだろうか

施設の小部屋に案内されしばらくするとドアのガラス越しに小さな影が見え隠れし、いよいよご対面であります。こんにちわ、あらかじめ何らかしらの説明を受けていたのだろうか、ケンジは職員につれられ照れながら挨拶し部屋に入ってきたのだ。彼は見ず知らずの夫婦に戸惑いつつも、施設の用意してくれたおもちゃで一緒に遊んでいたが、顔つきは強張り笑顔もほとんど見せる事もなく、初日の交流は終了した。ケンジは何処にでもいるような普通の子を装っているのか、職員の話とは違い、想像以上に普通であった事が逆に不安にさせられる程であった。彼の胸中は誰にも分からないが、私たちとケンジが共に人生を歩んで行くという運命のイビツな歯車がギシギシと音をたて静かにゆっくりと動き始めたのでありました。


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