5歳の感情

ケンジとの交流は進み、一緒に外出したり我が家に泊まりに来たりと順調の様であったが、一緒に過ごす時間を重ねても彼との距離感はあまり変わらない様に思えたのだ。そもそも5歳の男の子という存在がどのような思考や感情を抱くものなのかよく分からないし、自分の経験を思い返しても、遥か遠い記憶の彼方の事であり、ましてやケンジとは数ヶ月前に出会ったばかりである。

生まれてすぐに施設に預けられ、家庭というものを知らないケンジ、母という安全基地を獲得できずに育った彼の心には大きな穴が空いているのかもしれない。何もかも抜けてしまう大きな穴が。口だけは5歳児にしては流暢だが、テープレコーダーのように情緒なく羅列する言葉に私は何か冷たいものを感じてしまうのであった。落ちつきのない彼の心を満たす事は出来るのだろうか?家庭とは?愛情とは?

答えは風に舞っているらしい。笑って行こうじゃないか。気楽に行こう。

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