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Infinite Music Odyssey_003

序文——

あンまり激しく感情や言葉を迸らせたあとは、心静かにありたいもの。

今週はテレヴィジョンを眺めても、実生活を過ごしても、続発する騒擾にウーン。
呻きどおしだった気がする日々にとって、音楽は「のど飴」でありました。
言葉を怒濤に話しつづけると、いくらか愉しいのだけれど、喉は渇き、痛む。
いまは声をあげるべきときなのかもしれないが、やっぱり声帯にも限度はある。
そんな折にのど飴を口に含むと、度を越した饒舌が痛めつけていたモノに気づく。
飴は「話すだけが全てではない」と厳かに説き、ゆーっくり制動をかけてくれる。
そして、沈黙し閉ざした口いっぱいに、無量の甘みや涼しさを満たしてくれる。
この味わいは喋っていたら分からない。

胸が騒ぎ、ともすれば言葉を無際限に溢しそうになるときこそ、音楽を口に。
腫れ上がるより、晴れ上がった喉で、また話しましょう。こんばんは。

Infinite Music Odyssey——今宵も、音楽の遥かなる旅路へ。
以下に挙げる5曲はいずれもAmazon Primeで聴くことができます。

♫ 君の横顔/古美術

諸君なら先刻御承知でありましょう、古美術のベスト・アルバムです。
岩井澤監督のアニメ映画『音楽』で人気をかっさらったトリオ・古美術。
まず、ヴォーカルがいい声してるんです。甘く、それでいて涼しげな男声。
云うなれば…チャイ、みたいな。総じて甘いんだけどスパイスの香が底流にある。
そんなメリハリの効いたチャイは、きらきらした銀器のギターに載り提供される。
アルバムを聴くたび、一陣の涼風がアタマに吹き渡るように感じます。
軽妙なリズムなのもまた、後味爽やか。古美術の次回作が待ち遠しいです。

♫ Good Night Song/naomi & goro

Eテレで平日深夜に放送している「2355」。
眠たげな人々を載せて走る終電を、少し離れて車窓外から見つめる映像の挿入歌。
この歌を耳にするのは、たいてい23:59締切の課題をぎりぎり提出し終えたとき。
列車に揺られてこそいないけれど、骨の芯まで疲れ、眠くなっている折。
そんなときに「Good Night Song」を聴くわけです。ええ、そら、沁みます。
ヴォーカルの声の玲瓏たるや、なんと比喩できよう。白湯?

♫ mellow/サカナクション

高校在学の時分からずっと聴いてきたサカナクション。
思い出深い曲はいくらでもあります。ライヴもけっこう訪れました。
「mellow」は、動騒の日中を慌ただしく駆けたあとの夜によく触れる曲です。
サカナクションの真骨頂は、こういう「深海」を思わせる静けさにあります。
静かで、とても暗いのだけれど、提灯アンコウに因るものか、ほの明るい。
また、陸上や水面に多発する波紋がここには少しも無い。フラットである。
底の底で、ゆらりゆらりと、クラゲのように。どうぞ寛いでください。

♫ 愛するポーギー/Keith Jarrett

キースのピアノ曲、とても好きース。おほん、好きです。
長いあいだピアノを高尚な、厳格な、それゆえ縁遠いものだと思っていました。
キース・ジャレットが奏でる音色に触れて、はじめて愛着を覚えたのであります。
曲調はすんごい寡黙。でも、背筋が伸びるほどような厳しさはみられない。
最低限の声量で、最低限の発話数で、夜らしい語らいを訥々と交わす。

♫ 愛を奏でて/エンニオ・モリコーネ

『海の上のピアニスト』劇伴歌より。
気の乗らないなか始めた演奏だが、その途中、ピアニストの主人公は恋に落ちる。
焦り・歓喜・困惑・緊張・悲哀、そういった感情の渦がしっかりと曲調に表れる。
一目惚れという、一回こっきりの現象を、録音によって繰り返し体験できること。
そんな、秘密の語りかけともいうべきプライヴェートな演奏を記録し、世界に放とうとする商業主義に主人公が反感を抱くのも頷けるというもの。聴いたあと、単なる幸福だけじゃない、恥ずかしさや気後れを感じるのはそこにあるのかもしれない。
しかし、映画と併せて観ても、そこから曲だけ切り取って聴いても、やはり名品。

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I.M.O.文庫から書物を1冊、ご紹介。 📚 東方綺譚/ユルスナール(多田智満子訳)