見出し画像

マインド・ザ・ギャップ 13

 階段を上がり、さっき言われた部屋の前に立つ。僕の部屋になるが僕だけの部屋というわけでもないのだ、ノックをするべきだろうか?しばらく考えたが、最初に無礼なやつだと思われても困るので3回ノックした。3回は僕の癖だ。チェケルにいる時に周囲の人に聞いてみたが、どうしてだか2回の人が半分以上であとの人は4回か何かしらの倍数、3回の人はいなかった。僕のノック。そして中から誰かの「どうぞ」という声。さぁご対面の時間だ。

 中には僕のノックの回数と同じく3人の男子がいた。ひとりは窓に向かい半ば僕に背を向け、ベッドに腰かけながら手元にある何かの機械の説明書らしきものを熟読していた。平々凡々とした白人少年だが、めったに見ないくらい猜疑心を剥き出しにして説明書を詰問しているようにも見えた。床に座っているふたりはチェスをしていて、先攻の白は鼈甲フレームの大ぶりな眼鏡をかけ盤面を睨んでいる。後攻の黒は少しがっちりとした中央アジア系で彼の方が有利にゲームを進めているようだ。
「始めまして、僕は…」と自己紹介をしようとしたら、「知ってるよポール。ミスター次期大統領」と眼鏡が遮った。

「いくら名門校だって言っても、さすがにこれから大統領になるようなやつはそうそういない。君はもうけっこう噂になってるんだぜポール」とベッドの主は完全にこちらに体を向けながら言う。
「僕はジム・クレイマン。その眼鏡っ子が…」
「勝手に僕を紹介するなジム。僕だって自己紹介くらいできるさ。僕はユアン、ユアン・マッキンゼー」
「俺はイサク・ツワイジリ。本当は”イスハーク”なんだけど、発音しづらいだろ?だからイサクでいいよ」

 少なくとも僕が見た限りではジムとユアンは仲のいいルームメイトとは言い難く、頻繁に小競り合いをしていそうに思えた。イサクはたぶんとても思慮深いやつで、だからこそジムとユアンの諍いに積極的に関わろうという風にはならないのだろう。

 こうして未知との遭遇は始まった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?