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マインド・ザ・ギャップ 4
この国の政治構造は極めて歪にできていた。何しろ首相までは選出されて着任するものなのに、大統領だけは世襲制というわけの分からないものだ。
そうこの国の憲法で決まっているらしい。憲法というのは国政のルールブックにもなるので、一度決まったルールを変えるには大変な時間と労力が必要になる。試合中にコロコロルールが変わるようでは誰もまともにプレイできない。一応議会はあるのだが、実際には国民に選択肢を提示していると内外にアピールするためのもので、どの党の主張も似たり寄ったりだ。車で言えばナンバープレートの違う同じ車種が並んでいるようなものだった。
そんな茶番に疲れたのかもしれない、僕が10歳の時に母は突然大統領であるニコラス・ネジャヴと再婚した。僕には何の相談もなかった。でも驚きはしたが反対というわけでもなかった。何しろその頃の母と言えばほとんど家に帰る時間もなく、いつ寝ていつ食事しているのかというような状態だった。当然もともと短かった僕らの共有する時間はほとんどなくなってしまっていた。唯一の繋がりは携帯電話のメールのやり取りだ。母が疲弊しているのは明らかなので、僕は必死に励ましのメールを送り続けた。
最初のうちはそれで母もどうにか頑張ってくれていたようだが、徐々に返信の頻度は減り、母の心が折れかけているのが分かった。そんな時に結婚の話を聞かされた。まだ婚約の段階ではあるが、近々結婚する予定だと。今にも崩れ落ちそうな母の姿を見るのは苦痛だったし、母がこれで少しでも楽になるのなら、と前向きな捉え方をしたのだ。
僕は当時の生活にだって何の不満もなかったし、ましてや大統領の家族になるのだ。悪くないじゃないかと思うことにした。でも初めて父に会う時はさすがにとても緊張した。ある夏の日だった。母は第一党のリーダーを退き議員としてのキャリアを全うし、僕と引っ越しの準備をしていた。議会も閉会期間に入っていた。もともと物がそこまで多くない生活をしていたので、引っ越し作業は順調に進んでいた。僕が段ボールに自分の本を押し込んでいる時に電話が鳴った。クローゼットの奥から「ポール、出てくれる?」と母が声をかけたので、僕は立ち上がって受話器を取った。
「はい、デマルです(その時点での僕と母さんの名字だ)」
しばらく間を置いて彼は話し出した。
「君がポールかい?」
「はい、そうですけど?」
「初めまして。私はニコラス・ネジャヴだ。こうして話せて嬉しいよ」
僕は絶句した。
大統領じゃないか!
今度僕の父になるらしい、顔は知っていてもどんな人なのかは全然知らない人。
「驚いてるんだろう?無理もない。私たちはまだ会ったこともないんだから。今日電話したのはそのことなんだ。ちょっとジェーンに代わってもらえるかな?」
「あっ、はい」
僕は状況をよく理解できないまま保留ボタンを押し、母に声をかけた。電話に出た母は今までに見たことのない表情で20分以上話し込んでいた。僕は何となくモヤモヤした気持ちを抱えながら荷造りに戻った。そして今まで全く意識に上がってこなかった事実に気付いて愕然とした。
つまりこういうことだ、このまま行くと次の大統領は僕?
翌週の昼に僕らは大統領官邸に引っ越した。初めて会った時のことは忘れようがなかった。ドアを開けて入ってきた大男の姿を。大きな鼻、優しそうな目、白髪交じりのヒゲ、そしてゴツゴツした手。僕の初めての父さん。僕はもう何を話したか覚えていないけど、何かおかしなことを口走ったらしい。後になっても時々からかわれた。僕らは長いこと話をし、最後に静かに抱き合った。そしてめまぐるしく転がり続ける日々の始まりだ。
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