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マインド・ザ・ギャップ 2

 ここ、トメナンカ収容所内にも畑はあり、通常の収容者たちは日中そこで必要以上に過酷な農作業をさせられるが、僕にはそれもない。つまりネットを閲覧する・そこからネタを探して動画を撮影する・歯を磨く・寝る以外にやることがないのだ。中国語の部屋へようこそ。

 シャワーとシーツ交換は週に1度。シャワーの時間は30分。もちろん王国から出た瞬間からシャワー室の中まで監視付きだ。シャワー室に入る際に着替え、下着、バスタオル、石鹸、安全カミソリを受け取る。そして30分以内に着替えまでを済ませシャワー室から出て、汚れたものを看守に渡す。

 ヒゲは剃った剃らなかったりだが、伸ばし過ぎたら「ダンスパーティー」らしいので、あまり蓄えておくことはできない。もっとも僕はあまりヒゲが似合わないが。散髪は3カ月に1回、これもシャワー室の中でバリカンを持った看守の前で椅子に座り、頭を刈られる。部屋に戻って鏡を見るまで仕上がりを確認することはできない。たまにひどく髪の長さがちぐはぐになっていることもあるが、もちろん文句など言えない。伸びてくるまで我慢だ。

 そろそろ僕、ポール・ネジャヴについて軽く説明しておこう。看守たちからはアーマルと呼ばれているが、それは僕の自尊心を叩き折るためで本当の名前じゃない。僕はたぶん今27歳だ。たぶんというのはこの部屋には時計がなく、PCのカレンダーを頼りにするしかないからだ。たぶん正確だろうが、これだって将軍たちに操作されている可能性がある。動画が投稿されているサイト(先に述べたように、撮影するのは僕だが、投稿するのは僕自身ではないため)の僕の名前のアカウントを見ると最新の動画投稿の日付から今日の日付が推測できる。おそらく合っている。

 人種はまごうことなき正統なる黒人種で、髪はご先祖に倣って固くチリチリにひん曲がっている。今は散髪の2週間くらい前なので少し伸びてる。前のシャワーの時剃り忘れたからちょっとヒゲも伸びてる。もちろん髪も瞳も真っ黒だ、生まれた時から慣れ親しんだプリティ・ブラック。職業は……一応捕囚ということになるんだろうか?だけど僕はネットを通じて外の世界を見ること「だけ」はできる。世界情勢だって何となく知ってはいるが、そこまで詳しくはない。世界は広大だからだ。僕ひとりで理解できるようなものでは決してない。何事にも月の裏側のように見えないところは存在する。現在の僕の住まいはチェケル国・ジミニ州・トメンナカ収容所・西棟303番だ。黄色い囚人服を着ている。黄色は警戒色で目立つからだ。靴は履いていない。最後に測った時の身長は174cmで、たぶんそれ以降伸びてはいないと思う。足のサイズは28cm。ちょっとしたペンギンだ。最後に体重計に乗った時は標準体重だったが今ではこんな暮らしだ、前より痩せたんだろう。ここの収容人数はだいたい500人くらいだが、独房は本来懲罰房で、収監されているのはそのごく一部だ。もちろん他の独房にはネットなんか引かれてないだろうし、照明すらないかもしれない。

 なぜ僕だけ特別扱いなのか?理由はとても簡単だ、僕は大統領の息子だ。

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