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マインド・ザ・ギャップ 6

 次の変化は僕がそれを忘れかけていた頃にやってきた。ある日いつも通りリビングのテレビの前に陣取りビデオゲームをしていると、母に声をかけられた。
「ポール、ちょっと来て。大事な話があるの」
「何?」
 僕はポーズボタンを押してから立ち上がり母のところへ行った。
「これを読んでくれる?」と母は大きな封筒を僕に差し出した。
「何なの?」と僕は不可解に思いながら封筒の中身を取り出す。その中身は想像もしていないものだった。イギリスのパブリック・スクールのパンフレットだ。

アビンドン・スクールだって?どこだよそれ?


 大まかに目を通してから顔を上げ、混乱しながら母に尋ねる。
「どういうこと?」
「ごめんなさいポール。あなたには悪いと思ってるのよ、常々議員になんかなるなと言っておきながら、同じ口でこんなことを言うなんて。でも前々から必要な手続きや登録だけはしてあったの。あなただって分かってるでしょう?次の大統領はあなたなのよ」
「そんなこといきなり言われたって分からないよ!母さんだって僕の学校の成績は知ってるだろ?パブリック・スクールになんか入れっこない!それに僕は政治になんか興味はない!」
 僕が言っていることに嘘偽りは一切なかった。当時の僕の成績は見事な平均値以下だった。結婚に伴い僕は以前通っていた普通の学校からエリート校へ転校させられていた。前は授業を聞いているだけで特に勉強しなくても学年上位あたりに入っていたが、転校と同時に僕は学年の下から数えた方が早いような成績になった。僕は母集団が変わるとだいぶ違うなぁくらいにしか思っていなかった。僕の興味はもっぱら絵を描くこととビデオゲームに向けられていて、学校の成績なんてどうでもよかった。本だってあまり熱心には読まなかった。いつか留学はしたいと思っていたが、それはイギリスのパブリック・スクールなんかじゃなく、イタリアの美術学校へだ。

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