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ノババックス製のワクチン

先日、日本でもノババックス製のタンパクワクチンが承認された。それについて気になる人も多いと思うので、免疫学的な側面からこの製剤を見てみよう。

海外では先んじて承認されていたので、以前から資料は見れたのだが、日本でもPMDAに審査結果報告書が公開されていた(https://www.pmda.go.jp/drugs/2022/P20220415001/400256000_30400AMX00192_A100_2.pdf)。これも参照しながら、製剤の特徴や機序について考えたい。

とは言っても、資料を見てもらうと分かるのだが、製剤の特殊性に関する部分は殆ど黒塗りになっていて、全く分からない。実は海外の資料でも肝心の部分が分からなかったのだが、先に結論を述べてしまうと重要な考察をする為に必要な情報が得られないというのがこのワクチンの現状である。

まず製造元のコメントから新規技術について、理解しよう。武田薬品は以下の様に述べている。

「Novavax社の遺伝子組換えたんぱく質ナノ粒子技術を用いた安定したプレフュージョンたんぱく質であり、Novavax社が特許を有するアジュバント「Matrix-M™」(以下、「Matrix-M」)を含有しています。」

つまり、このワクチンのポイントは「ナノ粒子化しかタンパク質抗原」という抗原の特徴と、「Matrix-M」というアジュバントの特徴である。免疫学的な安全性を、分子生物学的機序から考察する為にも、これら新規技術に関する情報が必要となる。

まず「ナノ粒子化タンパク質抗原」に関してである。明記されていないので推測だが、この工夫による利点は「抗原提示細胞への取り込み効率化」と「MHC-I経路への抗原提示促進」だと考えられる。この辺りは色々な研究が昔から行われているが、傾向としては上記のような概念がワクチンの効果に寄与するという論理的必然性に基づいているし、詳細は未公開だがこのワクチンもこの点に関して最適化されていると考えられる。そして、「ナノ粒子化タンパク質抗原」の実用化は(多分)これが世界初である。なので、それがどの様な影響をもたらすかは要注目と言えるだろう。

2点目は「Matrix-M」というアジュバントである。実はこっちの方が現状大きな問題だと考えている。何しろ詳細が分からないのだ。現時点で各種資料から分かる事は「サポニンベース」「サポニンのとある抽出分画」である事のみである。Matrix-Mに関して、細胞レベルでどの様な反応を示すかという論文は出ているが、具体的にどの成分が、どのシグナルを活性化して、その様な反応を示すという「機序」の部分は不明なのだ。とは言え、一般論としてのサポニンベースアジュバントについては昔から研究がされてきた。少なくとも、Th1型の反応、CD8T細胞含む細胞性免疫を活性化するアジュバントとして注目されてきたものだ。機序としても、クロスプレゼンテーション(これについてはその内記事で解説しよう)という抗原提示の経路を活性化して、CD8T細胞の活性化を誘導するだろうと考えられている(Nat Commun. 2016;7:13324.など)。その技術を基に、様々な工夫を加えて作られたアジュバントがMatrixシリーズだと考えられる。

これらの技術によって、通常のワクチンでは殆ど誘導されない細胞性免疫が効率良く活性化する。この点は核酸ワクチンと同じ様に、細胞性免疫に基づいた対感染症効果を発揮させ、同時に液性免疫に頼らない事でADEのリスクを最小化しようという事である。(ADEについてもその内記事にしよう)

一方で、新規技術・新規アジュバントについては、まだまだ不明な点が多く、免疫学的なリスクも引き続き注視する必要があると考えている。少なくとも、核酸ワクチンに特有の分子生物学的機序は回避している点も多く、実際に発熱など全身性の副反応は少ない様に見える。一方で、投与局所ではかなり強い反応が出ている様にも見える。これはやはり細胞性免疫を誘導するアジュバントが添加されている影響が大きいだろう。

余談だが、このワクチンでも分かる通り、今のワクチン対策は本質的には「細胞性免疫」を重視している。これはADEの事を考えると当然であるのだが、本来感染症に対するワクチンが健常人に投与して安全に機能するであろう「液性免疫を誘導して十分に効果がある」というラインを越えているのは事実である。本来は細胞性免疫まで活性化する様なワクチンは治療目的でないと許されないレベルの筈だったのだ。一方で、その様な事実をワクチン推進側はあまり言わない。言わないばかりか、恰も「抗体価」が重要であるかのように語る事が多い。これを欺瞞と感じない一般人が多いのは、その知識が不足しているからであり、それを知っているからこそ、為政者や開発者は真実を覆い隠せると考えているのだ。これは科学的に言って全く許せる事ではない。

せめてその様な連中が正直に、
「今までのワクチンでは、抗体しか誘導しないので、対応できません。危険ですが細胞性免疫を誘導するワクチンが必須です。これは今までのワクチンと同列には考える事ができません。国の為に犠牲になってください。一方で、細胞性免疫の誘導状態を気軽には測定できないので、抗体価を参考にして色々考えます。科学的には間違いばかりですが、政治的にそうするしかありません。ごめんなさい」
と言えば、誠実な姿勢だと言えるのだが。

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