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論文紹介:COVID後遺症と精神症状が持続する人におけるワーキングメモリ課題時の脳活性化パターンの変化

新型コロナウイルス感染症における最大の問題点は中枢神経系症状である。今日は、Brain fogなどの精神神経症状を有するLong-COVID患者が、記憶テストを行う際に磁気共鳴画像(MRI)で異常な脳活動を示し、記憶に通常使われる脳領域の活動から他の脳領域へのシフトが見られたことが報告されているのを見掛けたので紹介しよう。

論文は「Changes in Brain Activation Pattern During Working Memory Tasks in People With Post-COVID Condition and Persistent Neuropsychiatric Symptoms」(Neurology Apr 2023, 10.1212/WNL.0000000000207309; DOI: 10.1212/WNL.0000000000207309)である。この論文では、Log-COVID症状を持つ人と健常な人に対して、記憶テスト中の脳活動をMRIで調べている。つまり、脳を活動させた際に、健康な人と新型コロナウイルス感染による神経症状が出ている人の間にどの様な脳活動の違いが生まれているのかを調べたものだ。

興味深い点として、Long-COVID患者の認知テストのスコアは未感染者と同程度であったにも関わらず、記憶力や集中力が持続的に低下した。また、その活動で疲労感が残る患者では、作業記憶テストを行う際にMRIで脳の活性化がより大きく見られた。つまり、本来使用しない脳領域を使うことで、低下した脳機能を補おうという機序が考えられるのだが、そのために集中力や持続力は低くなり、疲労感も強くなるということだ。脳というのは非常に複雑で未知の部分も多いが、多数の神経細胞の繋がりがその機能を成立させていることは間違いない。新型コロナウイルス感染によって神経細胞が多数破壊され、その上でパフォーマンスを維持するためにネットワークを再編成することによって、機能的欠損を補ったということだろう。その脳機能自体は驚くべきことだが、一方で損傷が大きい程無理な補完を行っているケースもあり得る。認知機能自体に自覚症状が無くとも、新型コロナウイルス感染による神経系障害が潜在的に脳機能に与えている影響の恐ろしさが理解出来る。

また、Long-COVID群では手先の器用さと運動持久力のテストのスコアが対照群と比べて低く、怒り、悲しみ、ストレス、うつ、不安、疲労、痛みが多く、人生の満足度、意味、目的が低いことが報告されている。脳活動の変化が大きかったLong-COVID群では、よりテストスコアが低くなる傾向があり、直接的・間接的影響を問わずQOLに少なからぬ影響を及ぼしていることが予想される。

新型コロナウイルス感染による中枢神経系障害は気の迷いでも一過性のものでもない。人間として最も重要な知能・思考を破壊する恐ろしいものである。考えない人間はただの脆弱な葦に過ぎない。考えなしに遊び歩き、一時の欲望で唯一の武器たる知性を失う動物は滅びる運命であろう。

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