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コラム:正しいマスクの使い方

マスクを付けるべきか外すべきか、効果はあるのか無いのか、マスクについての考え方は、色んな論点で分断の要因となっている。科学的な結論を先に言ってしまえば「マスクは正しいものを正しく運用すれば感染対策に効果があるから十分な知識を訓練を以て使うべき」というのが結論である。

マスクの効果を論じる時には2つの視点がある。「自分を守る」という点と「他を守る(うつさない)」という点である。これも結論から言えば「正しく使う」ことで両方が達成できる。一般人集団などでマスク着用に効果が無いという報告を出す者がいるが、この根本的な問題点は「単にマスクを着用していたかどうか」ではなく「正しく運用していたかどうか」という点が重要だということである。周りの一般人を見ても、「正しいマスクを正しく使っている人」というのは半分も居ない。まず酷いのは鼻だしマスクや顎マスクなどの頭がおかしい人間である。他も自分も微塵も守れていない。いっそ付けない方が清々しいまである。面白いのは最近街で咳き込んでいる人間を見かけると大概が鼻出しマスクや顎マスク、ノーマスクの人間だということだ。彼らは根本的に対策意識が欠落しているのであろう。次に、一見マスクを付けていても、隙間が大きくスカスカなのも問題である。鼻の部分や両サイドなど隙間ができやすい部分をケアする必要がある。最後に多くの人間がやりがちなのが「間違った運用」である。マスクの表面をべたべた触ったり、剰えその手でマスクの下の鼻や口を触ったりする人間が一定数いる。『マスクを摘まんでずらし、鼻や口を触って戻す』というのは割とよく見かける。『マスクをずらしてその手で飲み物を飲む』というのも見かける。本当に意味が分からない。自分でウイルスを集めてわざわざ感染しにいっているとしか思えない。

では実際問題として効果の有無について考えよう。まず感覚的な話をしたい。私が一番不思議なのは「マスクをしない人達は息苦しいとか言いがち」なのに対して、そういう人たちは「マスクに効果が無いと言い訳しがち」なことだ。これが矛盾しているということに気付いていないのだろうか?彼らは「ウイルス粒子はマスクの開口径よりも小さいから素通り」などと宣うが、マスクの開口径より小さいものが全て素通りなら空気も素通りだから息苦しくはならない。マスクが(特に効果の高い不織布などが)息苦しいのは実際に気体分子を遮蔽しているからであって、その効率以上に当然ながらウイルス粒子も防がれているのだ。マスクの開口率は一つの要素であって、実際には流体力学を始め、遮蔽・帯電・吸着などあらゆる物理的要素によってウイルス粒子の侵入量を減弱させる。

その様な機序として空気感染までを含めてマスクの有効性を考察している研究は多く存在する(Proc Natl Acad Sci U S A. 2021 Dec 7;118(49):e2110117118.、mSphere. 2020 Oct 21;5(5):e00637-20. など)。ではどこに問題があるかと言うと、最初に言った「正しい運用」である。そもそも一般的な事実として、マスクは医療現場での疾患感染を大幅に減少させることが知られているが(Lancet 395, 1973-1987 (2020)、Proc. Natl.Acad. Sci. U.S.A. 118, e2014564118 (2021)、Science eabg6296 (2021)、など)、通常のコミュニティ環境における研究は一貫性のない結果を報告している (Eurosurveillance 25, 2000725 (2020)、Cochrane Database Syst. Rev. 11, CD006207 (2020)、など)。つまり、正しい知識や訓練が無ければ逆効果になる場合を含むということだ。それでも、「屋内では常に着用し続ける」程度の意識の高さがあれば十分な効果が得られることは、CDCの調査検討からも証明されている(https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/71/wr/mm7106e1.htm)。

では「正しい使い方」とは何だろうか?まずマスクを選ぶときは一般人なら不織布マスクを採用すべきである。息がしやすいから布マスクやウレタンマスクを使用する人が多いが、「息がしやすい」というのは「空気が通りやすい」というのと同義であり、「ウイルスが通りやすい」というのもイコールである。これは「自分を守る」にも「他を守る」にも共通している。

以降は基本的に「自分を守る」という点に主眼を置いている。「他を守る」だけなら、マスクをきちんと着けてくれていれば十分である。まずマスクを付ける時の注意点としては、まず付ける前に手が綺麗でなければならない。汚い手でマスクにわざわざウイルスを付着させることは何の意味も無い。実際にマスクを付ける際は、「隙間が無い」ように気を付けなければならない。これは相当に重要なポイントである。鼻の部分をフィットするように折り曲げる、サイドがゆるんで隙間を開けないようにする、など最低限の注意が必要である。この点に関して工夫を言えば、形状の異なる2種類のマスクを重ねる事で隙間を無くす技がある。不織布マスクではどうしてもサイドに隙間ができやすいが、その上から密着性の高いウレタンマスクを付ける事で、物理的に隙間を減らすことが出来たりする。フィルター性能の高い不織布マスクを、性能は低いがフィット性の高いマスクで覆うことで息苦しさを上げずに効果を上げるということだ。これは一例なので自分で考えて色々と試してみてもいいだろう。

一度マスクを付けたら基本的には一段落が付くまで外してはいけない。当然ながらマスクに触ってもいけない。どうしても給水などで外す必要があれば、周囲に人が居ない屋外など低リスクの位置に於いて、ヒモの部分を持って外すことになる。理想を言えば、一度外したマスクを使い回さずに新しいものに変えるべきだが、同じマスクを使用する場合は、外している間はマスクの汚染部分を意識しながら保持し、再装着することになる。この際も、付ける前後は手を洗うなど汚染状況を管理することが重要である。

これらを読んで「そんなの無理」と考えるのは自由である。呼吸器症状が無ければ問題無いと信じ込むのも自由。だが、既に述べた通り、現状最大の脅威は「神経系感染および神経症状」である。これを防ぐ術は感染対策以外にないということは既に記した通りであり、侵入するウイルス量を少しでも減らす努力を怠れば必ず長期的に被害を受ける事に繋がるだろう。そのリスクを甘受して好き勝手振る舞うのは自由だが、せめて他者に迷惑を掛けない程度の慎ましさを持ってほしいものだ。もっとも自覚無く認知機能や思考・記憶障害を呈しているケースが多いそうなので、その手の人達は既に手遅れなのかも知れないが。

最後に余談だが、「子供」についてはまた別の議論が生まれる。そもそも小さい子供は上記の「正しい運用」が不可能である。同時にマスクの各種弊害は子供の方が大きい。ということでそれらを踏まえてリスクベネフィット比較をしていかなければならないのだ。もっとも子供に於いても神経系感染の問題が無視できる訳ではないので、その点についてどう考えるべきかは非常に難しく私も答えに辿り着いていない。言ってしまえば、数十年単位で社会レベルでの認知機能低下などが起こる可能性もあるのだ。何とかしなければならない。

最後に、常に繰り返しているが、どのようなことについても基本的には「個別の状況に応じたリスクベネフィット比較」が最重要である。そして、それを正しく行う為には「正しく十分な知識」が必須なのである。いずれも誰に押し付けるべきものでもなく、誰に要求すべきものでもない。自分で「正しい知識」を身に着け、「自分の状況に於いてどうするべきか」を正しく判断しなければならない。

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