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臓器移植と核酸ワクチン②

丁度先日、自己免疫性肝炎が原因で肝移植を行った患者において、核酸ワクチンによる肝炎再発が症例報告されたので紹介しておこう(Transpl Immunol. 2022 Apr 4;72:101600.)。原題は「First report of post-transplant autoimmune hepatitis recurrence following SARS-CoV-2 mRNA vaccination」となっている。以下は論文のAbstractである。

”Whilst vaccination for the SARS-CoV-2 virus has been successful in reducing the severity and burden of the COVID-19 pandemic, there have been recent reports of mRNA vaccines triggering autoimmune hepatitis in the native liver. There have been no descriptions thus far of recurrent ''autoimmune hepatitis' after liver transplantation in the context of SARS-CoV-2 vaccination. We describe a patient transplanted for autoimmune hepatitis who was stable for many years until they had immune-mediated flares coinciding with Pfizer-BioNTech mRNA vaccination. Intravenous steroid treatment was required to suppress histologically evident interface hepatitis. We firmly believe that mRNA vaccination was responsible for this 'recurrence' and that clinicians should be vigilant for this reaction in patients transplanted for autoimmune hepatitis.”

この患者は2014年に自己免疫性肝炎のために肝移植を受け、通常の免疫抑制剤投与プロトコルによって2015年以降は(妊娠出産時を除いて)ALTの値がずっと正常範囲で推移してきたことが述べられている。しかしながら、3回目のブースター接種後に突然の検査値上昇がみられ、肝生検でもリンパ球の顕著な浸潤が認められた。さらに遡及的には2回目のワクチン接種時にもALTの上昇スパイクが確認され、筆者らは” We firmly believe”と強い表現で核酸ワクチンがこの再燃の原因であると断定している。

実際にALTの継時的変化グラフを見てみると、明らかに2回目、3回目のブースター接種が上昇の引き金になっていると言える。なお4回目時点は免疫抑制剤を増量しており、その際は上昇が抑えられている。現在の核酸ワクチンは複数回投与が基本となっているため、いくつかの症例報告では、この様にブースター接種も含めた継時的変化を考察する事で、核酸ワクチンに起因する可能性を示している。投与後にたまたま発症したという「偶然」以上の関連が見えているからこそ、多くの症例報告があるのだ。「単回投与後に単に発症」ではなく、「複数回投与において、投与ごとに悪化」という例が多く、「偶然」こんな事が起こる可能性を信じる方が不適切なのである。

特に、免疫抑制剤投与中にこの様な症例が報告されたというのは今まででも珍しい。既に述べた通り、臓器移植後にしろ、自己免疫疾患発症中の患者にしろ、免疫抑制剤投与中においては、炎症病態の活性化よりもむしろワクチン効果の低下を心配するべきであり、事実としてその様な方向性での報告が多いし、炎症病態の悪化なども報告はされていない。基本的には新規発症や、免疫抑制剤フリーでの寛解時における再燃が懸念だったのだ。今回の事例はやはり、あらゆる個別の状況に応じて、免疫系のバランスを操作する事の難しさを示唆している。この患者においても、免疫抑制剤の増量によってコントロールを維持しているが、以前も書いた通り、それは長期的な薬剤の悪影響を鑑みれば全く望ましい事ではない。

更に細かいところを見た場合に、この症例が「自己免疫性肝炎」としての反応と「移植臓器に対しての反応」のどちらが過剰に活性化した現象なのかは不明である。筆者らは以前紹介したSタンパク質に対する抗体と自己抗原の交差反応を一例に上げて、自己免疫反応の再燃を説明している。実際にはリンパ球浸潤が見られている事から、細胞性免疫の活性化も起こっているのだろうが、それは「既存の自己反応性T細胞が活性化した」のか、「肝臓で標的抗原が発現し、そこに抗原に反応性を持つT細胞が浸潤した」のか、はたまた「アロ反応性T細胞が活性化した」のか、いずれの機序も考えられるからだ。また、2つ目の反応に連鎖して、組織での細胞死が生じた結果として、その他の機序を惹起する事も考えられる。これが「無秩序に組織の自己細胞で抗原を発現させる核酸ワクチン」の恐ろしさでもある。

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