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記事コメ:新型コロナによる嗅覚喪失は、長期的な認知機能障害と密接に関係

21日付Forbesの記事「新型コロナによる嗅覚喪失は、長期的な認知機能障害と密接に関係」から、新型コロナウイルスの中枢神経系症状について考察を深めていこう。今回の記事では学会で発表された研究を基にして、長期的な認知機能障害が嗅覚障害と関連している事を紹介している。

新型コロナウイルス感染者が一定の割合で認知機能障害などの中神経症状を呈するのは何度も示してきた通りだが、今回の研究では重度の認知機能障害とされた参加者全員に、嗅覚障害がみられたという事だ。言うまでもなく嗅覚障害は新型コロナウイルスに多く認められる神経症状の一つである、この研究では感染者の40%にこの障害がみられた。この研究では、新型コロナウイルス感染症の重症度ではなく、嗅覚障害の重症度が、認知機能障害を有意に予測していたとのことだ。また研究チームは、1年間の電話調査を通じて参加者のワクチン接種状況も収集しており、参加者の大多数が予防接種を受けていたらしい。

ポイントとなるのは、嗅覚障害と中枢神経系障害に関連があるということだ。記事にもあるが、嗅覚障害は、新型コロナウイルスが嗅球(嗅覚情報の処理にかかわる脳の領域)を通じて脳に侵入しているか、あるいは、感染後も持続する疾患を引き起こしている可能性を示唆している。新型コロナウイルスの中枢神経系への侵入メカニズムについては以下のレビューなどがよくまとめている→「Infection Mechanism of SARS-COV-2 and Its Implication on the Nervous System」(Front Immunol. 2020; 11: 621735.)。この中にはウイルスが上皮細胞内に侵入すると、嗅上皮の末梢神経細胞および嗅神経に沿った2次神経細胞を介して中枢神経系に伝播するTranscribial routeという機序が紹介されているが、要するに新型コロナウイルスは呼吸器系に障害を与えなかった場合であっても、嗅覚の神経を通じて脳に直接侵入する能力を持っているのが脅威なのだ。ちなみにこのレビューでは過去に紹介したNrp1についても言及しているので、当然それらも併せて考察してほしい。

大事なことなので何度でも言おう。新型コロナウイルスの最大の脅威は中枢神経系感染と神経症状である。なぜならこれらは検出することが難しくワクチンで防ぐことも難しいからだ。正しい感染対策を行い、暴露ウイルス量を可能な限り減らすことと、粘膜上で速やかにウイルスを除去するためのあらゆる条件を整えておくことが何よりも肝要となる。

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