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総説紹介:新型コロナワクチンによる脳炎のまとめ

前回のSタンパク質による病態形成と関連する部分もあると思われるので、今日は以下の総説を紹介しておこう。

「Immune-mediated encephalitis following SARS-CoV-2 vaccinations」
(Clin Neurol Neurosurg. 2024 Mar:238:108188.)

Sタンパク質はACE2や神経系に発現するNRP1を標的とするなど、それ自体が神経血管系に何らかの影響を及ぼす可能性が示唆されているところであり、加えて核酸ワクチンについてはいつも述べている通り極めて危険な免疫活性化作用を有している。それらを複合的に考察した時に、脳炎など中枢神経系への自己免疫症状は懸念すべき点になるだろう。このレビュー論文ではその点に焦点を当てて症例報告を中心に要約している。まず論文のイントロダクション部分を紹介しておこう。

新型コロナウイルスワクチン接種の安全性プロファイルは、様々な情報源から満足のいくものであると報告されているが、実際のデータは異なることを物語っている (Vaccines (Basel). 2021 Nov 9;9(11):1297.)。特に、神経系の副作用がSARS-CoV-2ワクチンの合併症として認識されつつある。副作用は軽度、重度、致死的なものがある。SARS-CoV-2ワクチン接種の神経学的副作用のひとつは免疫性脳炎である (Acta Neurol Scand. 2022 Jan;145(1):5-9.)。新型コロナウイルスワクチン接種に関連した免疫性脳炎(SC2VIE)は、既知の自己抗体のいずれかと関連している場合もあれば、抗体陰性の場合もある。SC2VIEの亜型には、辺縁系脳炎、菱脳炎、脳幹脳炎などがある。

論文では18の症例報告などから症状やワクチン種との関連をまとめて紹介している。過去の報告からも分かっていた様に、最も神経系疾患の報告が多いのはアストラゼネカのベクターワクチンであった。これは核酸ワクチンの中でもウイルスベクターを用いたDNAワクチンであり、この種類のワクチンに特有の機序が関係していると考えられる。次に多いのはファイザーのBNT162b2というRNAワクチンであった。報告はこの2種類が大半のようである。

新型コロナウイルスワクチンによる神経系症状に関して、病態生理学的メカニズムはよくわかっていないが、基本的には分子模倣が最も妥当な概念と考えられている。つまりワクチンがSタンパク質に対する免疫を誘導することで産生される抗体が自分の正常な分子と交差反応することが神経系症状とワクチン接種との間の最も有力な因果関係であると考えられている。これは前回の総説でも述べられているSタンパク質と自己抗原の交差反応の問題と同じである。同時に、核酸ワクチンによる強い免疫誘導がその様な自己抗体反応を効率良く引き起こすという点も注意が必要であろう。

いずれにしても新型コロナウイルスワクチンに対する安全性への懸念が、神経学的副作用を報告する研究の増加によって裏付けられている。ワクチン接種を受けた患者の管理に携わる医療従事者、特に神経科医は、これらの副作用を認識し、早期に発見し、効率的に治療するために警戒を怠らないべきである。

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