immorと妹
「妹よ、
またメロンパン買ってきたのか!?」
「兄よ、
メロンパンは全能なる存在ぞ。敬い奉れ。」
----妹。
それは持たざる者全ての憧れであり、
持つ者全てのステータスである。
ゴキブリホイホイにひっかかって動けなくなっているそこの君!
観念しなさい、俺がimmor(イモー)だ。
人の気持ちになって考えてはみても、
人の心を理解するのは非常に難解である。
それは長い年月を過ごした家族とて同じ事だろう。
この世の理でさえも理解した我が人生において、いまだに理解が及ばない存在。
そう、それが“妹”だ。
今回は、妹の最も理解し難い部分を挙げよう。
妹はメロンパンを買いがち。
妹を持つ者は等しく共感できるだろう。
どのような場面であっても、どのような状況であっても妹は“メロンパン”を買ってきているのである。
ここで、妹がいない読者の為に
いま一度メロンパンについて説明しよう。
これまで我が家の妹がメロンパンを食べてきた
シチュエーションは以下の通りだ。
1.冠婚葬祭
結婚式であれば、
「花嫁が持つブーケがメロンパンに見えた」という理由で、近場のコンビニに売っているモッチリふわふわメロンパンを購入してきた事があった。
葬式であれば、
「木魚がメロンパンに見えて仕方ない」という理由で、近所のスーパーに売っている
北海道メロンクリーム使用の本格メロンパンを購入してきた事もあった。
どんなにめでたい場であろうとも、厳かな場であろうとも、妹が持つメロンパン欲の前では皆平等なのだ。
2.スイーツビュッフェ
スイーツだけで腹一杯満たす事が出来るのは女子が持つ特殊能力の一つである。
数多のケーキ、フルーツが食べ放題のスイーツビュッフェに赴いた妹は、俺から見てもごく一般的な量のスイーツを食べていたように思う。
概ね全種類のスイーツやフルーツを3周してお腹を満たすのが女子という生き物であろう。
しかし、妹が他の女子と違うのはここからだ。
そう、
メロンパン爆食いタイムである。
ビュッフェからの帰路、たまたま見かけたパン屋でメロンパンをしこたま買い付け、それを家で喰らう。
先刻のビュッフェで勢いづいたのか、いつもより倍量のメロンパンを喰らい尽くす様相は、まるで「我が子を食らうサトゥルヌス」を彷彿とさせる鬼気迫るものがあった。
我々家族はそれを優しく見つめる事で、
なんとか自我を保つ事が出来ていた。
あまりにも浮世離れした光景を目の当たりにした時、人という生き物は俯瞰して物事を視る事で自我の崩壊を防ぐのである。
3. 大規模なアートイベント
この世界には
「デザインフェスタ(通称:デザフェス)」という
催しがある。
幅広いジャンルのクリエイターが一堂に会して、作品を販売したり、ライブペイントを行ったりするアートイベントである。
来場者の興味関心は当然、クリエイターに向かう。
「あの作品欲しい」
「あのライブペイントかっこいい」
といった具合に、1日かけて会場を歩き回るのだ。
しかし、そんなイベントの場であっても妹の関心のトップは常にメロンパンである。
デザフェスでは腹を空かせた仔羊たちを満足させる為に多数のキッチンカーが出店している。
そのキッチンカーの中にメロンパン専門店があったのを、妹は決して見逃さなかった。
とても忙しない1日の終わりに
「今日は何か食べたのか?」と聞くと
「何も食べてないけど、キッチンカーでメロンパンを買ってきた。」と返ってきた。
もうね、俺は恐ろしかったよ。
メロンパンへの並々ならぬ執念はデザフェスであっても関係無いのかと。
帰り道、俺は恐ろしさのあまり、こっそり泣いた。
ここで、かの偉人が残した格言を読者諸君(♂)に捧げたい。
ごめんなさい、間違えました。
男という生き物は
哀しくも浅はかな生き物だ。
“女性”という存在に憧憬の念を抱くあまり、自己の欲求を抑える理性が朧げになってしまう愚かな生き物なのだ。
しかし、妹を持つ全ての兄が常々思う事は
「女性に夢を見る事はない」
という事である。
三島由紀夫とは違い、女性を誤解すること自体そもそも無いのが“兄”という肩書きを持つ者の宿命である。
そりゃあ、メロンパンに人生を狂わされた人間を間近で見続けているのだから当然だ。
かような悲しきメロンパンモンスターを、
俺はどうにかして救いたい。
その為には何が必要だろうか。
メロンパンを滅ぼす?
無理だ。
世界中に存在するメロンパン職人と闘う必要がある。
妹を隔離する?
無理だ。
この広い世界を自由に羽ばたいてほしい。
いっそのこと、飽きてしまう程に大量のメロンパンを食わせる?
これだ。
かく言う俺もサーモンが大好きだった5歳児の時に20巻ほどサーモンのお寿司を食べた後は、サーモンの顔も見たくないくらい嫌いになったものだ。
この作戦なら間違いなく常人の世界に妹を連れ戻せると考えた俺は、さっそく近隣の、いや街中のメロンパンを買い漁った。
コンビニやスーパーで売っている
安くて美味しいメロンパンも…
パン専門店の上質な焼き立てメロンパンも…
移動販売している幻のメロンパンも…
珍しいものからありふれたものまで、
俺は妹の為にあらゆるメロンパンを用意した。
そして遂にその時は来た。
およそ100個はあるように思えるメロンパンを目の当たりにした妹は、夕焼け空で一際輝く1番星かのように煌めく眼差しを向けていた。
この言葉を皮切りに、妹は数多あるメロンパンを貪り始めた。
その時の、まるでこの世が極楽浄土なのかと勘違いしてしまう程に妹の幸せそうな、眩しい笑顔を俺は忘れないだろう。
メロンパンに関しては大喰らいの妹も、さすがに43個ほど食べたところで満腹になったようで…。
「ダメだ…
もう…食べられない…」
先の恍惚とした表情から一変、妹の顔から笑顔は消えていた。
その時、俺はようやく自分がしたことの愚かさに気づいた。
妹から悦びを奪いとってまで常人の世界に連れ戻す必要はあったのか?
そもそも常人の世界とはなんだ?
SNSでは誹謗中傷や
悪辣な情報操作が飛び交い、
現実では銃弾やミサイルが
多くのものを破壊していく。
こんな狂った世界において、メロンパン1つで人生を煌めかせる事が出来る妹はとても稀有で尊ぶべき存在なのではないか?
そんな妹から、
俺はメロンパンを奪い取ろうとした。
なんて愚かで傲慢な行為だったのだろう。
俺は妹に何度も謝罪した。
出会ってから今日までの間に申し訳なく思っていた事を全て謝罪した。
涙も鼻水も何もかも垂れ流しながら。
すると妹は息も絶え絶えに、たった一言だけ呟いた。
「そんな事、もうどうだっていい…
沢山の愛と、
メロンパンをありがとう…」
そう呟いた妹は、
ゆっくりと目を閉じて
寝た。
という話を考えました。
immorは1人っ子なので、妹がいたらこんな感じかなぁと想像してみました。
今回は作家仲間から
「immorと妹ってタイトルで、妹はメロンパン買いがちをテーマに書いてみなよ」
とリクエストをいただいたので頑張って応えました。
貴重な仕事の休憩時間を全てこのnoteに費やしました。
そう、俺は頑張りました。
是非、♡(スキ)を押して労ってください。
あら!押してくれてありがとうございます。
お願いしてみるものですね。
皆さんも恥ずかしがったり遠慮などせず
積極的にお願いしてみてはいかがでしょうか。
それでは、全ての妹とメロンパンに幸あれ。
immor
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