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07 出身文化、継承文化も同じくらい大切なもの


 アロンソは9歳のとき、両親と一緒にペルーから来日し、日本の公立小学校に通い始めて1年が経ちました。友だちとは何とか日本語で会話できるけれども、先生が話す日本語が難しく、何もわからないまま授業が終わるのを待つだけになっています。上級生から「英語話してみろ」とからかわれたこともあります。

 近所に住むエレーナもペルー国籍ですが日本生まれ、日本語は何不自由なくできます。でも、毎日工場で遅くまで働いている母親は日本語ができません。学校から配られた連絡帳も、エレーナが読んであげます。お母さんのことは大好きだけど、友だちに日本語ができないことがわかると恥ずかしいから、今度の授業参観に来てもらうか悩んでいます。


▶出身地の文化、継承する文化、生活地の文化、それらすべてが大切

 移民の子どもにとって、自分とつながりのある言葉や文化と接する機会がきちんと保障されることが大切です。文化には、出身地の文化、親や祖父母から受け継いでいる継承文化、いま生活している地域の文化があり、一つではありません。もちそんそうした文化のなかにも、ジェンダー差別的なものなど現代的な件点からみれば、継承が望ましくないものがあるかもしれません。移民の子どもたちが、自分とつながりのある文化を選択しつつ受容していくためにも、そうしたさまざまな文化的・社会的要素を理解するための知識や環境も必要です。

 海外で生まれ育った子にとって出身地の言語(母語)は、まさにコミュニケーション、思考する手段となります。言語はコミュニケーション言語と学習言語に分かれます。学習言語は抽象的な思考や論理的な議論をおこなうために非常に重要で、幼少期に学習言語がきちんと身につかないと、母語も日本語も堪能な「バイリンガル」ではなく、両方とも会話程度にとどまる「セミリンガル」状態になるという指摘もあります。したがって、母語による学習環境の保障が必要なのです。

 一方、日本生まれの子どもたちが継承語を学び継承文化にふれる機会は、自分のルーツを肯定的に受けとめられる自尊心の涵養につながります。


▶国際人権法では「ちがうこと」が権利として認められている

 国際人権自由権規約では、民族的マイノリティは、同じ集団の他の人たちとともに自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰・実践し、自己の言語を使用する権利があると定めています(第27条)。子どもの権利条約でも、民族的マイノリティや先住民の子どもに対して同様に文化・宗教・言語の権利があるとしています(第30条)。このことをふまえると、移民の子どもに対して「日本人と同様に扱う」だけでは不十分だといえます。つながりを持つ国・地域の文化や宗教、言語を大切にできる環境が整備されることが求められています。


▶海外における多文化主義(Multiculturalism)の実践

 カナダやオーストラリアなど、政策として「多文化主義」を掲げている国があります。多文化主義は、一つの国・社会のなかで複数の異なる文化が対等なものとして認められ、共存することを積極的に進める考え方です。多文化主義の代表的な理論家のC.テイラーは、人がより良く生きるための不可欠な条件としてアイデンティティの承認があり、その構成要素となる集団帰属を求める多文化主義運動が重要であること、さらに複数の文化の尊重こそが多様な集団の平和的共存をもたらす、と指摘しています。

 多文化主義の実際の政策は、国や時期によって異なり、その社会状況もさまざまです。文化的多様性を尊重しながら各文化間の相互作用・交流を積極的におこなうことを重視する間文化主義(Interculturalism)という考え方も生まれています。日本でも今後、多文化主義を政策として取り入れていくことを検討すべきです。


▶外国人学校、民族学級などの教育実践を拡充しよう

 日本には200校近くの外国人学校・インターナショナルスクールがあり、2万人を超える子どもたちが通っています。また日本の公立小中学校で放課後、子どもたちが継承文化に触れる「民族学級」が大阪を中心におこなわれています。でも、これらの教育実践に対する公的支援は非常に限られているか、まったく受けられていません。

 民族学級を含めた日本の学校における“多文化化”と、外国人学校・インターナショナルスクールの拡充が、移民の子どもたちにとって求められています。日本の子どもたちにとっても、多様な選択肢ができ、自分に自信を持ち、個性や能力を切り開いていく可能性を増やすことにつながるでしょう。

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