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倉庫番日記

一時的に仕事が無くなってしまったので、しばらくAmazonの倉庫で日雇い労働をしていた。

生まれてこの方肉体労働というものをしたことが無いゆえに新鮮な体験が多かったので、ここに記録として残しておく。

1日目
倉庫までは近くの駅から送迎バスが出ている。バスに乗り込むと、周りの席には外国人しかおらず、各々がそれぞれの母国語で談笑している。倉庫に到着してもすれ違う人はみんな東南アジア系か中東系の人たち。しかし受付のブースに行くと、1つだけ日本人のグループがあった。列に並ぶと金髪の大学生が話しかけてきてくれた。出自に共通点が多く、割とすぐに打ち解けられた。

倉庫内は安全靴(つま先に鉄板が入った靴)を持っていない人はスキー用品みたいなプロテクターを靴に着ける必要がある。歩きにくい。

仕事はメール便(箱じゃなくて紙袋の荷物)の仕分け。指先にバーコードリーダーを付けて荷物を読み込んでいく。荷物には00-00-00みたいに6桁の数字が書いてあるんだけど、その前二桁の10の位ごとに場所が区切られていて、1の位の数字を見てひたすらそれぞれのダンボール箱に放り込んでいく。段ボール箱がいっぱいになったら運搬用のカゴ車に積み込む。それをひたすら何時間も繰り返す。

倉庫の中は常温でとにかく暑い。暑くて頭が回らないので時間は思ったよりも早く進む。

現場監督は2人。1人はオールバックで1人は気さくな部活の先輩みたいな雰囲気だ。あんまり詳しく仕事の説明をしてくれないのでやりながら覚えていく感じ。隣に割り振られた眼鏡で細身のおっさんは慣れた様子でテキパキと作業をしていたが、俺が分からなそうにしているとその都度やり方を教えてくれたので助かった。

俺の前のレーンで作業をしていた小太りのおっさんはあまりにも仕事ができないみたいで、いろんな場所に回されていたが、どの作業もまともにこなせないようで現場監督が困った顔をしていた。

少しして小太りのおっさんが俺の作業場所にやって来て余計なことをしだすと、隣の眼鏡のおっさんが強めの態度でそのおっさんを威嚇し、小太りのおっさんはどこかへ消えていった。その後眼鏡のおっさんはサボりやすい倉庫の情報を俺に教えてくれた。眼鏡のおっさんはいい人だったが、中学生みたいな喋り方だった。

仕事が終わり倉庫から出てすぐに前のコンビニに行ってビールを空けた。焼鳥が食べたくなった。

2日目
受付の前で1日目にも見かけたお姉さんに声をかけられた。話を聞いていると、その人も前回が初めてだったようだが、この仕事のために安全靴を新しく買ったそうだ。

この日から配属場所が変わって、メール便ではなくレーンに流れてくる箱の荷物を仕分けるようになった。カゴ車の中に大きさの異なる箱を綺麗に詰めていかなくてはならないので、テトリスみたいな作業だ。その上一箇所の番号に荷物が集中するとレーンがどんどん溢れていってしまう。

その日は日本人が俺とそのお姉さんしか居なかったので、外国人に混じって作業をしていた。周りの外国人たちが仕事に慣れていたので楽だった。日本語も英語もあまり通じない様子だったが、意外とみんな愛想良く接してくれるし困ったら身振り手振りでサポートしてくれる。

お姉さんは荷物がレーンから溢れ出して作業員が大変そうにしていることを「戦争が起こっている」と言っていた。独特な表現だな、と思った。

お姉さんは普段は服屋で接客をしているらしい。

現場監督の人が同い年なことが判り、フレンドリーに話すようになった。

3日目
受付に行くとずっと独り言を言い続けているおっさんがいて、周りの人間がみんな距離をとっていた。

試しにおっさんの独り言に返事をしてみたらそこから普通に会話が成立した。おっさんは普段相模原の方にある倉庫で働いているらしい。交通費が出ないバイトなのに随分と遠くから来ていたので、なんか訳アリなんだろうなーと思った。

今度はレーンの手前のベルトコンベアでカゴから降ろされた荷物をレーン毎に仕分けする仕事が割り振られた。次々と荷物が流れてくるのでとにかく目が疲れる。

なんとかスピードに追いついて仕分けをしているが、自分の前のレーンばかりに荷物が集中しているせいでどんどん荷物がレーンから溢れて落ちていく。仕方がないので荷物を押して奥に追いやる。前で仕分けをしている同い年くらいの女は慣れた様子だが、それでも追いつかない。

何故かその女がムスッとした顔でこっちを睨みつけて、レーンから荷物を落とすなと文句をつけてきたが、自分に非があるわけでもないので無視した。

日雇いは仕事ができる人間も使えない人間も同じ給料しか出ないし、どれだけ仕事ができても時給は上がらない。

損得だけで言えば慣れれば慣れるほど損をすることになるので、ムカつくのも仕方ない。

文化祭とか合唱コンクールの時にクラスにこういう女子いたよなーと昔のことを思い返しながらベルトコンベアを見つめていた。

小学校の頃、大縄跳びの大会の練習でクラスの男子が真面目にやらないことに怒っていた女子に逆上してクラスみんなの前でその女子の髪を掴んで校庭中を引き摺り回していたO君の顔をふと思い出して複雑な気持ちになった。

4日目
ロッカールームに行ったらアラブ系の労働者が床に段ボールを敷いてお祈りをしていた。

仕分けの仕事でまた前のムスッとした女と一緒になってしまった。今度は俺の前にいる別の奴がポジションが悪いせいで仕事が効率的に回ってないから場所を移動させろと何故か俺に言ってくる。俺と同じ日雇いなのに。

言い返したら時給が上がるわけでもないので、こういうタイプの人って大人になっても変わらないんだなーと思いながら指示に従った。

何度か顔を合わせているベトナム人の労働者が声をかけてくれるようになった。

5日目
駅前で送迎バスを待っていたら、この前のベトナム人が話しかけてきた。日本語がまだ苦手なようで、スマホのGoogle翻訳の画面を見せてコミュニケーションを図ってくれる。ハノイの大学を出た後、日本で薬剤師になるために東京の学校で勉強しながらAmazonの倉庫で生活費を稼いでいるらしい。言語が不自由だと労働の選択肢が少ないらしく、倉庫の仕事はそういう人たちの受け皿になっているようだ。バスから降りると、よく分からない味の飴をくれた。

アパレルのお姉さんとまた会った。世間話をしながらレーンで仕分け作業をしていると、お姉さんはこんなことを言っていた。

「あのいつもムスッとした子いるでしょ。あの子この前鞄に財布入れたままにしてて盗まれたらしいよ。今社員の人が防犯カメラの映像とか確認してるらしいけど、日雇いの人って顔と名前とか一致してないからまず返ってこないだろうって。」

「外国人が多いからねえ」とお姉さんは続けて言っていたが、俺はそれを聞いてまた同級生のO君の、あの時の顔がチラチラと頭に浮かんでいた。

アパレルのお姉さんは来月で服屋の仕事を辞めてこの倉庫に就職するらしい。

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