医師の時間外労働規制_

知らないと損をする!R2年度診療報酬改定と医療勤務環境改善マネジメントシステムの関係について その①

今回の診療報酬改定で出てくる、見慣れない”キーワード”
「追加的健康確保措置」、「医師等勤務時間短縮計画」
初めてお聞きになる方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は、診療報酬改定と働き方改革の関係について、触れてみたいと思います。

診療報酬改定と働き方改革との関係と背景


実は、これ、”医療勤務環境改善マネジメントシステム”が根底にあります。この言葉もはじめて聞いた方もいらっしゃるのではないでしょうか。厚労省の広報も周知不足で、現場には落ちてきていない感が否めません。そのため、一番目立つ、短冊の一番・最初に持ってくるという荒業に踏み切ったのではないかと思います。様々な政治的な思惑がうかがえます。
この勤務環境改善をすすめることに関しては前回の医療法改正で努力義務として盛り込まれ、その結果、各都道府県に医療勤務環境改善支援センターが設置されています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/quality/

2024年には、勤務医の時間外労働規制に関する法律が改正・施行されることはほぼ確実です。前回の記事

令和2年度診療報酬改定!ざっくりサマリと対応の方向性
https://note.com/imds/n/n45b54cad2246

でもご説明しましたが、

厚生労働省が2019年3月28日にまとめた報告書(医師の働き方改革に関する検討会報告書)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_04273.html
では、医師の時間外労働の上限は原則「年間960時間」とし、地域医療確保の暫定特例水準や集中的技能向上水準に該当する場合、特例として「年間1,860時間」まで認められることが決定しています。厚労省の担当技官は、ほぼこの内容そのままの法案が提出されることになると、おっしゃっているようです。

今回の改定は、2024年へ向けた布石となっています。これからの病院経営は、チーム医療力と人事労務管理の徹底がますます重要になります。
厚労省は、これからの医療政策について三位一体改革を進める方針を打ち出しています。
三位一体改革とは、「地域医療構想」、「医師・医療従事者の働き方改革」、「医師偏在対策」の3つを推進していくもの(2019年4月29日 社会保障審議会医療部会 於)。

人事・労務管理が機能しないと対応できない

まず、医療機関の働き方改革ってなんぞや?という方は、まずは、この厚労省が運営する「いきさぽ」を御覧ください。
https://iryou-kinmukankyou.mhlw.go.jp/

いまや診療報酬改定は、総力戦です。もはや医事課の落ち穂拾いだけではどうしようもない、病院の経営戦略が最も重要であるということが今回の改定で如実にわかってきました。
そして、何よりも今回の改定は働き方改革が一丁目一番地です。
なぜか。それは、2024年への布石だからです。

はやく、この記事を一通り読んでいただき、時流に乗っていただきたいと思います。この流れを知らなかった、病院経営企画室マン、医事課長、人事課長、総務課長、今すぐに確認していただきたいと思います。今からでも間に合います。この記事をしっかり読んでいただきたいと思います。

この時期、改定三銃士(MMオフィス工藤先生、ウォームハーツ長面川先生、ASK梓 中林先生 等)により細かい改定のポイント解説が動画、Web等で繰り広げられると思いますが、働き方改革の具体的なノウハウはほとんど、語られることはないと思います。なぜなら、改定コンサルはほぼ労務管理においては明るくないからです(もちろん明るい方もいらっしゃいます)。
なおかつ、働き方改革については、全国の医療機関で全然進んでいないので、支援できるコンサルタントも数が限られています。

これをご覧になり、これは内輪だけでは中々難しいな・・・と思っても、外部環境はすでに厳しい状況になっています。これらの取り組みの支援ができるコンサルタントは、希少。いたとしても、実績は少ないのが実情です。なにせ、改革は今から進めていくものであり、目立った実績は全国的にもごくわずかであるからです。
良質なコンサルタントを確保するには、今すぐにでも、県の医療勤務環境改善支援センターに連絡、人事・労務専門コンサルタント等を取り入れる等の施策が必要となります。
(コンサルタント事務所の斡旋、並びに医療勤務環境改善支援センターの活用を誘導するものではありません。ステマでもありません。)
事例は、”いきさぽ”ホームページに多数掲載されておりますし、今年の4月には今年度の研究成果報告書がアップされることになりますので、それを最新事例として、研究するのが得策です。報告書の内容は充実していますので、今から、ご自身や担当部署を巻き込み独学、研究すれば、十分対応できる内容ではあります。

医師の働き方改革はどうなるのか?概要

まずは、医師、看護師をはじめとした医療従事者への労務管理が必要です。
既に、時間外労働の規制等は始まっていますので、この点について、対策ができていない医療機関は流石にないと思いますので、詳細な解説は省略します。
まずは、医療勤務環境改善の要諦をさっくり把握していただくために、
厚労省の解説動画を御覧ください!
※末尾にも再掲しますので、一旦読み進めて頂いても結構です。

医師の働き方改革について(簡略版)5分!
https://www.youtube.com/watch?v=k83MoynacX0

医師の働き方改革について(詳細版)17分!
https://www.youtube.com/watch?v=6HQeOfyoR3c

なおかつ、詳細資料を入手されたい方は、こちらもご確認いただくとより、内容がわかると思います。病院経営層、医事課、人事・総務系部署、経営企画室関係者は必読です。
医師の「働き方改革」へ向けた 医療勤務環境改善マネジメントシステム 導入の手引き (詳細説明版資料)
https://iryou-kinmukankyou.mhlw.go.jp/outline/download/pdf/c5108423b39b60946160943e2352c620bb892d26.pdf

なお、医師の働き方改革以前に医療従事者の勤務環境改善に関する手引書も作成されています。
https://iryou-kinmukankyou.mhlw.go.jp/outline/download/
様々なツールのDLも可能ですので、このリンクにある各種資料を一通り確認されると良いと思います。

勤務医の時間外労働に関しては、一般的な労働者の規制とは異なる定義が必要ということで、3つの水準が準備されることになっています。

詳しく解説していきますが、ざっくりと言えば、3つにわかれており、
A水準:時間外960時間/年→基本形(全ての病院・勤務医が該当)
B水準:時間外1,860時間/年→特例で救急等地域に必要不可欠な役割を担う
C水準:時間外1,860時間/年→特例臨床研修医・専門研修中の医師が在籍

B水準、C水準は第三者評価機構を創設して、基準を満たしているかチェックされる予定で、既に新しい検討会で引き続き議論がなされています。
医師の働き方改革の推進に関する検討会
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_05488.html
次回開催は2020年3月11日です。

詳しくその条件を列記します。(医師の働き方改革検討会報告書 概要より転載)

<A水準>診療従事勤務 医に2024年度以降 適用される水準
「臨時的な必要がある場合」 (休日労働を含む)時間外労働上限:年960時間以下

診療従事勤務医の時間外労働の上限水準として、脳・心臓疾患の労災認定基準を考慮した(A)水準を設定
※一般の労働者のMAXを参考値として設定。

<B水準>地域医療確保暫定特例水準(医療機関を特定)
「臨時的な必要がある場合」 (休日労働を含む)時間外労働上限:年1,860時間以下

地域医療提供体制の確保の観点(①2024年時点ではまだ約1万人の需給ギャップが存在し、さらに医師偏在解消の目 標は2036年、②医療計画に基づき改革に取り組む必要性、③医療ニーズへの影響に配慮した段階的改革の必要性)から、やむを得ず(A)水準を超えざるを得ない場合を想定し、地域医療確保暫定特例水準((B)水準)を設定。
医療機関機能、労働時間短縮の取組等の国が定める客観的要件を踏まえ都道府県が対象医療機関を特定⇒特定された機能にかかる業務につき(A)水準超での36協定が可能に。新たに設ける「評価機能」が医療機関ごとの 長時間労働の実態や取組状況の分析・評価を実施。結果を医療機関・都道府県に通知・住民に公表し、当該医療機関と地域医療提供体制の双方から労働時間短縮に向けて取り組む

<C水準>集的技能向上水準(医療機関を特定)
「臨時的な必要がある場合」 (休日労働を含む)時間外労働上限:年1,860時間以下

①臨床研修医・専門研修中の医師の研鑽意欲に応えて一定期間集中的に知識・手技を身につけられるようにすること、 ②高度な技能を有する医師を育成する必要がある分野において新しい診断・治療法の活用・普及等が図られるようにすること、が必要であり、集中的技能向上水準
(C)-1水準(①に対応)
(C)-2水準(②に対応)を設定。
C-1:初期・後期研修医が、研修 プログラムに沿って基礎的な技能や能力を修得する際に適用※本人がプログラムを選択
C-2:医籍登録後の臨床従事6年目以降の者が、高度技能の育成が公 益上必要な分野について、特定の医 療機関で診療に従事する際に適用 ※本人の発意により計画を作成し、医療機関が審査組織に承認申請

追加的健康確保措置とは何か?

これも聞き慣れない言葉ですが、なんのか。
冒頭のスライド資料でも示した図の下側の部分です。左側に追加的健康確保措置と記載があり、下半分に書いてある内容です。これは時間外労働の上限規制にプラスして健康確保措置を取りなさい、ということです。医師は一般の労働者よりも過酷な働きをしているという前提に立った上での”追加的健康確保措置”ということです。
ざっくり言えば、以下です。
・連続勤務時間制限28時間
・勤務間インターバル9時間の確保
・代償休息のセット
なお、これは、B水準、C水準の場合、”義務”となり、A水準は努力義務となります。

詳細には、同報告書に以下のようにまとめられています。

(追加的健康確保措置:総論) 

○ 人命を預かるという医療の特性から、やむを得ず、一般の労働者に適用される時間外労働の上限を超えて医師が働かざるを得ない場合に、医師の健康を確保し、医療の質や安全を確保するために、一般労働者について限度時間を超えて労働させる場合に求められている健康福祉確保措置 19 に加えた措置(追加的健康確保措置)を講ずることとする。

<追加的健康確保措置①>

・ 勤務日において最低限必要な睡眠(1日6時間程度)を確保し、一日・二日単位で確実に疲労を回復していくべきとの発想に立ち、連続勤務時間制限・勤務間インターバル確保を求める。
・ 連続勤務時間制限・勤務間インターバルについて、日々の患者ニーズのうち、長時間の手術や急患の対応等のやむを得ない事情によって例外的に実施できなかった場合に、代わりに休息を取ることで疲労回復を図る代償休息を付与する。ただし、(C)-1水準の適用される初期研修医については連続勤務時間制限・勤務間インターバルの実施を徹底し、代償休息の必要がないようにする。

<追加的健康確保措置②>

・ 同じような長時間労働でも負担や健康状態は個々人によって異なることから、面接指導により個人ごとの健康状態をチェックし、医師が必要と認める場合には就業上の措置を講ずることとする。

<義務付け等の構成> 

・ (A)水準の適用となる医師を雇用する医療機関の管理者に、当該医師に対する追加的健康確保措置①の努力義務(※)と追加的健康確保措置②の義務を課す。
※ ただし、実際に個々の医療機関が協定する36協定の上限時間数が一般則(月 45 時間・年間 360 時間以下、臨時の場合年間 720 時間以下)を超えない場合を除く。
・ (B)・(C)水準の適用となる医師を雇用する医療機関の管理者に、当該医師に対する追加的健康確保措置①の義務と追加的健康確保措置②の義務を課す。

<その他>

・ 月の時間外労働が極めて長時間となった者について、一定時間数を超過した段階で労働時間を短縮するための具体的取組を講ずることとする。

上記については、報告書にさらに詳細な条件が記載されていますので、実際に報告書を手によりしっかり読み込んでいただきたいと思います。

これで、今後の2024年に向けた大まかな方向性については、ざっくりとはご理解いただけたのではないかと思います。
次回は、では、どうすれば良いのか?何をどうしたら良いのか?

医療勤務環境改善マネジメントシステム

について、迫りたいと思います。

再掲※厚労省による医師の働き方改革に関する説明動画リンク

医師の働き方改革について(簡略版)5分!
https://www.youtube.com/watch?v=k83MoynacX0
医師の働き方改革について(詳細版)17分!
https://www.youtube.com/watch?v=6HQeOfyoR3c