診療報酬改定

令和2年度診療報酬改定!ざっくりサマリと対応の方向性

今回の改定は、MMオフィスの工藤先生によれば、

多職種の協力と、まさに経営方針が問われる
働き方改革元年改定」&「ピンポイント攻撃改定

今回は、R2年度診療報酬改定について、ざっくりサマリと対応の方向性について、解説してみたいと思います。細かい話ではなくて全体感の流れを掴むというのが今回の趣旨です。

Ⅰ 令和2年改定の背景

なぜ、働き方改革なのか?その背景には、一般企業及び医療機関でも既に適用されている時間外労働の上限規制が、2024年に医師にも適用されるということがあります。
厚生労働省が2019年3月28日にまとめた報告書では、医師の時間外労働の上限は原則「年間960時間」とし、地域医療確保の暫定特例水準や集中的技能向上水準に該当する場合、特例として「年間1860時間」まで認められることが決定しています。
今回の改定は、2024年へ向けた布石となっています。これからの病院経営は、チーム医療力と人事労務管理の徹底がますます重要になります。
厚労省は、これからの医療政策について三位一体を進める方針を打ち出しています。
三位一体改革とは、「地域医療構想」、「医師・医療従事者の働き方改革」、「医師偏在対策」の3つを推進していくもの(2019年4月29日 社会保障審議会医療部会 於)。

2025年のその先の2024年までを見据えた持続可能な医療提供体制を構築していくためには、これまでの不合理を是正していくために、この相反する3つのテーマを同時並行で改革していかなければならないという論理です。これまでの医療政策の不合理を是正していくだけあって、そう簡単にできるわけではありません。しかし、厚労省はこの方針を実現していくために、様々な具体策を診療報酬改定、法改正で講ずることによりこれらを実現していこうとしています。今回の診療報酬改定の一丁目一番が働き方改革なのは、まさにそういった背景があるからにほかなりません。

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出典:2019年4月24日 社会保障審議会医療部会

Ⅱ 令和2年度改定を医療行政と絡めて読む

1.働き方改革と今回の診療報酬改定の関係

今回の改定では、”地域医療体制確保加算(入院初日 520点)”が新設されました。今回の改定の目玉中の目玉です。地域で救急医療を頑張っている病院を評価するもので、その前提として、適切な労務管理を実施すること。とあります。まさに冒頭の医師の時間外労働時間規制への布石と言える内容となっています。
今回の改定の一丁目一番地は、まさに”働き方改革”。すぐに何かを改革できるという程、甘いものではありませんが、だからこそ、今からタスクシフティング・シェアリングについて真剣に議論をはじめていかなければなりません。ここで乗り遅れた病院・何もしなかった病院は、2024年に経営危機を迎えます。

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出典:医師の働き方改革に関する検討会 報告書の概要

2.地域医療構想と今回の診療報酬改定の関係

今回の診療報酬改定は、地域医療構想を実現するためのロジックが組み込まれました。そういう意味では、前回改定のストレートパンチに続く、左フック改定となっています。
前回の大改定のストレートパンチ:急性期病床について、7対1、10対1という概念を廃止し、10対1をベースとした上で、急性期一般入院料という階段上の評価に組み替えた。
今回ピンポイン改定の左フック:大病院は地ケア病棟導入不可。重症度、医療・看護必要度の基準値修正(救急と手術をやっていないと生き残れないロジック)

また、そもそもこの急性期病床の峻別に関する議論が具体化的方向づけされたのは地域医療構想となりますが、その目的は、2025年へ向けて変化する医療ニーズに過不足のない医療提供体制を構築すること、とされています。一方で、確かに急性期病床削減という裏の目的もありますが、それよりも重要なのは地域医療構想の目的でも言われているように医療ニーズ変化とのマッチングです。既に、後期高齢者が増える時代の医療は、これまでの急性期病院だけのあり方では対応できない時代になっているということで、看護師配置の施設基準のみを持って高い入院料を算定するというモデルから本来あるべき姿に切り替えていきたいという考えがあります。
端的に言えば、真の急性期病院を残し、地域に密着した亜急性期(表現は古いですがあえて)、在宅復帰を支援する回復期の病院の役割を明確にしていきましょうという方向性なのです。
昨年9月末に地域医療構想WGにて開示されたデータで、再編統合について指摘された公立・公的の424病院(修正後440病院)。指摘したからと言って、すぐさま再編統合はしないだろうと思いきや、実はこれは再編統合を模索する病院のアリバイづくりだったのです。既に各地域で、手上方式で、再編統合を国の補助金・国の支援を受け進める地域が5地区選定されています。
公開当初は、”寝耳に水”と言って各地域からは、批判の声が相次ぎましたが、その水面下では、強かにこのアリバイを生かして、再編統合の手続きを進めていた病院があるということなのかもしれません。
さらに、R2年度の厚労省予算では、稼働病床に対するダウンサイズ基金なるものが創設されており、病床削減へ向けたダイナミックな施策が打たれており、病院病床包囲網が形成されつつあります。
 さらに、今年度、各都道府県で医師確保計画、外来医療計画が策定されました。ざっくり言えば、過密地域は開業を規制しますということです。

Ⅲ 令和2年度改定の要諦

それでは、ざっくりR2年度改定のサマリをまとめていきます。順番は独断と偏見で注目度準に並べておりますので、短冊の項目とは、ズレていますがご了承ください。

1.働き方改革の推進に資するもの軒並み評価
・医師事務作業補助体制加算―医師タスクシフト
・急性期看護補助体制加算―看護師タスクシフト
・病棟薬剤業務実施加算―医師・看護師タスクシフト
働き方改革に資するものは、すべて点数がつく。あるいは要件緩和。そして、今回の目玉は地域医療体制確保加算です。

2.重要度、医療・看護必要度
真に急性期と言える病床に絞る、基準変更。
(1)A項目:「免疫抑制剤の管理」を除外する(注射剤を除く)
(2)B項目:状態×ケアの実施で、根拠記載不要に。
(3)C項目:入院実施割合が90%以上の手術(2万点以上)および検査を追加(カテ検査が入った!)
・C項目の評価対象日数を延伸
(4)重症患者(看護必要度を満たす患者)の定義を変更
「『A1点以上・B3点以上』で、『診療・療養上の指示が通じる』『危険行動』の いずれかに該当する患者」(いわゆる基準②)を廃止。

3.地域包括ケア病棟
・大病院(400床以上)では地ケア病棟届け出不可。
・地ケア病棟は期間Ⅱまでは、DPC点数を引き継ぐ。
Ⅲからは地ケア算定。
・おそらく重症度、医療・看護必要度は地ケア病棟の評価なので、一般病棟の必要度維持には有効打は続く。
・つまり、一般病棟からの転棟用で利益を出していた地ケア病棟は減算の方向。
※一部DPC係数が高い病院はダメージがほぼない可能性もある。おそらく1.4以上の病院はダメージ薄い。
・ポストアキュート(自院の急性期病棟からの受け入れ)には厳しくサブアキュート(自宅等からの患者受け入れ)に対して手厚い改定。利益重視で地ケア病棟を取った大・中病院は、足元をすくわれることになりました。

4.入退院支援関連
・入院時支援加算には多職種要件が強化。ア~サの支援フルパッケージで、加点(栄養士、薬剤師等の支援介入)。
・総合評価加算100点▶総合機能評価加算50点で入退院支援加算の加算に組み込み。既に取っている病院は事実上減算。運用的には入院時支援に合わせてチェックできるので、効率的ではあります。

5.外来機能分化
・200床以上の地域医療支援病院は外来初診の選定療養費義務化
▶当院は元から紹介状なしの初診は受けていないので運用上、問題にはならないとは思います。
ERの飛び込み等(要件には救急は取る必要ないと明記あり)、飛び込みで受ける場合の受付での説明等
丁寧な運用の検討が必要です。
・診療情報提供料(Ⅲ)として、かかりつけ医(地域包括診療料等届出)からの求めに応じて情報提供を行った場合の点数が新設。大病院の外来を減らして、その分、かかりつけ医に初期診断をしてもらおうという意向です。

6.救急医療
・救急医療管理加算は現行制度では、算定基準が曖昧なので、JCSスコア等の記載を義務化(摘要欄に記載)
・重症度・医療、看護必要度において評価方式Ⅱ(レセファイルで評価する場合)は、救急医療管理加算と夜間休日救急搬送医学管理料がA項目の加点となる、DPCの救急医療係数にも関係するため、積極的な算定が必要。
・必要度評価においては、救急医療管理加算がEFファイル(レセプトデータ)に反映されていることがポイントであり、査定は関係ない。

7.特定看護師・特定看護師は今後必須。
・麻酔や救急のタスクシフティングに向けた看護師の養成が必要となります。
▶これは病院方針として育成していく方向を検討していかなければならないと考えます。無論、投資対効果の計測は必要ですが、時流を鑑みるに積極的に専門・認定看護師の要請について病院補助・育成方針を検討する必要があります。

8.多職種連携
・急性期病棟から慢性期病棟への退院、施設への退院時における低栄養が問題されています。急性期病院に入院し、病気は治ったが低栄養で虚弱化が進んでしまうという問題が指摘されています。
・こういった背景から、病院管理栄養士はどんどん評価されます。(ICUへの配置等)
・また、周術期歯科は浸透していないので、これを誘導する。
・今後、薬剤師の確保はマストになる。病棟薬剤業務実施は標準。
・入院時のポリファーマシー解消の推進も評価。
・如何に優等な多職種を集め、業務開拓(タスクシフティング・シェアリング)、教育ができるかが、今後の病院経営の鍵となります。

9.DPC
・調整係数廃止に伴い機能評価係数Ⅱは完成。大きな変更はない。
・DPC病院の退出は2022年移行として、それまでは診療密度、在院日数の通信簿を病院に送りつける。
・機能評価係数Ⅱは標準病院群の高い。無理して特定病院群になると逆ザヤになる場合がある。
・治験病院、新型インフル病院に加点(要届出)。

10.総合入院体制加算
・精神科や産婦人科の縛り。これが原因で地域医療構想をすすめる際に、疾患別の機能分化の阻害要因になっている。そのため、総合入院体制加算の要件を緩和(再編統合時に産科等なくなっても、総合入院体制加算は引き続き算定可能)。

11.医師事務
・医師事務補助体制加算、今回も増点。唯一事務に点数がついている。事務員の配置で貴重な点数。
・医師事務の数が病院の強みになる時代。医師の生産性を考えると十分ペイできる加算。
・医師事務がいない病院は負け組と言われる時代になっています。医師の業務負担軽減について真面目に取り組めていない証となります。さらに、医師のリクルーティングにも影響を及ぼすテーマになりつつあります。
・病床刻みで最も経済的な配置基準というのはあるのですが、基本的にはそういうことではなくて、必要な人員をいかに早急に確保して、業務内容を開拓し、人材を育てられるかのマネジメントが問われています。

12.ICTの活用
ICTについては下記の8項目が挙げられています。
・情報通信機器を用いた診療に係る要件の見直
・情報通信機器を用いた診療のより柔軟な活用
・かかりつけ医と連携した遠隔医療の評価
・情報通信機器を用いた遠隔モニタリングの評価
・情報通信機器を用いた服薬指導の評価
・情報通信機器を用いたカンファレンス等の推進
・外来栄養食事指導(情報通信機器の活用)の見直

Ⅳ 改定に対する心構え

これからの病院経営は、業態選択が必要です。そもそも、自院の業態を考えなければ、小手先の加算集めでは経営が息詰まることになります。
① 地域の医療介護需要の変化はどうなるのか?
② 近隣病院の動向はどうか?
③ 自院のビジョンとポテンシャルはどうか?

すでに、地ケア病棟、回リハのコモディティ化も進んできており、ただ導入するだけではもはや差別化でも何でもありません。いち早く舵をきり、回復期ゾーンの中でも差別化を図らなければ生き残れない時代が来ています。

改定対応の前にやるべきことは経営戦略と経営管理の徹底。その先に改定がある。

① 明確な「MISSION」と「Vision」があるか?
② USP(Unique Selling Proposition)があるか?要するにコレという売り
③ 内部資源開発(教育・人材開発・人事制度)があるか?
これがないのに、改定対応ばかり目を向けていても時間を浪費するだけだと考えます。改定の細かい損得に時間を浪費する暇があるのであれば、まずはこの3つの論点に目を向けるべきではないでしょうか。

これからの診療報酬改定は、三位一体改革の中で人事・労務機能の本領発揮が求められます。加算のための人材育成なのか、質の高い内部資源開発のための人材育成なのか、本来の経営戦略に立ち返り、内部資源開発に取り組む必要があります。人事が機能していない病院は、必ずどこかで体力が持たなくなります。

そして、USPを地域に届けるマーケティング機能はより重要となります。現在の機能をPRする、内部資源を磨き上げる、機能転換戦略後にPRする、何にしてもマーケティングがないと、何も始まらないのです。

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