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【コラム】”針を刺す”という医療行為

アメリカに来て2年が経ちます。こちらでは医師としてではなく、研究者として働いており、毎日パソコンに向かってデータを解析するという日々なのですが、以下のツイートをしていて、ふと、日本で行っていた”針を刺す”という医療行為について想いを馳せていました。

日本にいたときは画像診断医として、放射線科に所属していました。私の働いていた病院では、画像検査に必要な点滴ルートを確保するのが医師の仕事だったので、一日平均10人くらい、多い日には20人くらいの点滴の針を刺していました。
点滴の管を入れた回数は、医師の中でも割と多いほうだと思います。
そうしてみると、「血管に針を刺す」という単純な医療行為にも、色々なバリエーションがあり、安全かつ精度よく行うには、経験や知識、観察力、想像力が必要だなぁと思います。

※今回は血管穿刺(特に静脈)に焦点を当てており、その他の穿刺行為は対象にしておりません。

血管に針を刺すという行為には大きく分けて、①血液を採取すること、と②血管内に何か(薬剤や輸液、時には医療機器)を入れること、の二つの目的があります。

画像引用元:Medical Technology 38巻1号 2010年1月15日 p.14-20 (https://www.ishiyaku.co.jp/magazines/mt/MTArticleDetail.aspx?BC=013801&AC=2815)

さて、まずは『①血液を採取する』
この場合に大切なのは、安全に十分な量の血液を採ることです。
この目的のためには、太くてかつ逃げにくい血管を選ぶ必要があり、肘のあたりが穿刺部位になることが多いです。
血液検査のための1mlを取るときも、献血のための400mlを取るときも血管の選択基準は基本的には同じですが、献血の時は採血量が多く時間がかかるので、献血の穿刺を担当される方は、より血管の選び方には繊細になられているのではないかと想像します。
血液を採取するときには、少し太い針を使います。
普段ワクチンなどで細い針を見慣れていると、採血の時に意外と太くてギョッとされた方もいらっしゃるかもしれません。
ある程度太いほうがいいのには理由があって、血液内の血球成分を壊さないようにするためです。
献血を含む採血を目的とした穿刺では、採血が出来れば抜いてしまうので、針は金属のものを使うことが多いです。

画像引用元:ニプロ株式会社ホームページ (http://med.nipro.co.jp/)

一方で、『②血管内に何か入れる』という時、留置針というものを使うことが多いです。
使用前(画像上)は金属の針(画像中)とプラスチックの筒(画像下)が一緒になっています。

流れとしては、
1.まずは、採血と同様に静脈に針を刺します。
2.金属の針と一緒にプラスチックの筒を血管の中に到達させ、十分に血管の中に入ったな、と思ったら
3.金属の針だけ抜いてきます。
すると、血管の中にはプラスチックの筒だけになり、安全かつ継続的に静脈にアクセスできるようになります。

そして、何をどのくらいのスピードで入れたいかによって、この留置針のサイズが変わってきます
私たちが検査に使うとき、造影剤という粘性の高い液体を30秒程度の間に100ml単位で急速に静脈注射する必要があるので、太めの針を選択します。
一方、病棟や外来で行う点滴のためであれば、細いもので問題ありません。
ただ、CT検査用の留置針は、検査が終わり次第抜いてしまうので、採血同様、肘の静脈を使うことも多いのですが、点滴の場合は、短くても数時間、長い場合は数日留置針が入りっぱなしになるので、肘の静脈は使えません。
一日中肘を曲げれない生活は不便ですもんね。
何か医療機器を入れるという際にも、どのくらいその医療機器が入っているか、どのくらいの大きさのものを入れる予定かということを考慮しながら、留置針の大きさや穿刺部位を決定します。

静脈穿刺の際に一番気を付けているのは、神経損傷を起こさないこと
教科書的には、神経損傷を起こしやすい部位と起こしにくい部位があると学びますが、神経の走行は人それぞれなので、十分に配慮していても神経に針が触れてしまうことがあります。
穿刺の時に、「痛みが強かったら教えてください」と言われるのは、この神経損傷を避けたいからです。
針が神経に触れたときにすぐに抜けば、損傷を最小限に抑えられるんですね。
でも、「痛くないわけではないし、どのくらい痛いのがダメなのかもわからない」、と思う方もいらっしゃるかもしれません。
一つの目安として、神経に触れたときには針を刺しているところ以外にも痛みが広がるような感覚があったり、指先に電気が走るような感覚があります。
その他にも、「あれ?何だかいつもと違うな。」と思うことがあったら、躊躇せず穿刺行為を行っている医療従事者にお伝えください

さて、今回は”針を刺す”という医療行為について、述べてきました。
この記事が少しでも皆さんの不安や疑問を解消できていれば幸いです。

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