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【はじめに】医療画像は2+1次元を生きる

こんにちは、画像研究医のタクと言います。

日本では画像診断医としてトレーニングを積み、PETという医療画像撮像法の研究をするために、2017年からアメリカの東海岸まで修行に来ておりました。

この場で改めて自己紹介をと思い、書かせて頂きます。

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アメリカには2017年の3月に越してきました。

大手を振ってこちらに渡ったのも束の間、ほんの2年ほどで、日本に自分の居場所がなくなってしまう寂しさに襲われ、居ても立っても居られなってしまいました。

『どうしたら日本との繋がりをより戻すことが出来るのか、あわよくば皆さんのお役に立つことが何か出来ないものか。』

そんなことを悶々と考えていた時、ヤンデルさんに出会ったのです。(詳しくはヤンデルさんとの往復書簡の初めのお便りをご参照ください)

この衝撃的な出会いをきっかけに、ヤンデルさんを今後の活動の師と仰ごうと勝手に心に決め、事あるごとに無礼を承知で相談メールを送ったりしました(その節は大変失礼致しました)。

そんなこんなである日をきっかけに始まったヤンデルさんとの往復書簡。

医療情報発信という未経験の活動に足を踏み出した若輩者の私に、ヤンデルさんはいつも優しく伴走して下さいました(その節も大変失礼致しました)。

約半年間をかけて、ああでもない、こうでもないとやり取りを続けた末、私に適した一つのアプローチにたどり着きます。

「生体イメージングという手法を通じて、体の中で起きているものに驚きと感動、そして物語を感じる」
「科学の持つ物語性に『もっと知りたいな』と心を動かされた人向けに、より科学的な解説をつける」

なるほど、私の個人的な科学に対する感動や畏敬の念を、自分の言葉で表現することが、広い意味では医療情報発信につながるのかと思いました。

これからは、こちらの『今とミライの医学教室』マガジンで、科学の世界の美しさを切り出してご紹介していければと考えております。

特に、生体イメージングは、その眼を引く美しさはもちろんのこと、自分の研究活動にも直結するので、積極的に取り上げていく予定です。

顕微鏡生体イメージングの近年の技術革新がこれまでの医療画像の発展に似ており、非常に興味深いのです。

そもそも、『物体を透過することが出来る光』つまり、X線の発見に起源をもつ医療画像診断学は、様々な科学技術の発展に伴って成長してきました。

その中でも、CTMRIといった検査技術は、取得できる画像の情報を2次元から3次元に押し上げた、20世紀を代表する画期的な発明でした。

更にはコンピュータの演算能力の向上により、撮影時間や画像を作る時間が極端に短縮、現在では数秒から数分の撮影で全身の3次元情報を数百枚の断層画像という2次元情報の束として取得することが出来ます。

その数百枚の画像データは一枚ずつコンピュータのモニタに表示され、マウスをスクロールすると、モニタ上に表示される断層画像が連続的に頭方向に移動したり、足方向に移動したりします。

モニタから仮想的に立ち上がるz軸方向の情報を、アニメーションのように時間軸上に配置することで3次元情報を可視化している感覚ですね。

3次元の立体構造情報を2次元(断層画像)+1次元(仮想的時間軸)に分解して表示していると言ってもいいかもしれません。

そして、画像を読む医療者は、視覚を通して入力されるそのアニメーション的な2次元断層画像群を、脳内で静的な3次元に再構築していくという作業を行っています。

この2+1次元分解(勝手に命名)が3次元情報を人間が扱うときの最適解かどうかに関しては、今後の技術革新を待たなくてはいけませんが、現状、非常に広く浸透した手法であることは間違いありません。


このような形で、身体を傷つけることなく、健康状態や病気の進行を評価することを可能にした医療画像診断学ですが、しかし、これらの技術には『解像度』という最大の弱点が存在します。

現状の医療画像技術では1mmより小さな構造を正確に観察するのは非常に難しく、細胞レベルで(おおよそ0.005~0.05mm程度)観察するためには、顕微鏡が必要になります。

『細胞一つ一つの特性を詳しく評価したい』などという状況では、ヤンデル先生のご専門である、病理学や組織学といった分野に引き継がれるわけです。

理想的には、この引継ぎはスムーズに行いたいと願うのですが、ただ、これまでこの二つの分野を橋渡しするには、大きな大きな溝がありました。

原因は、解像度に差がありすぎること、視野の範囲が違いすぎること、そして顕微鏡画像を撮るには組織を薄くスライスしなくてはいけないこと

このすべてが、画像診断分野と病理分野を分断し、『手術前の画像検査のここに見えていたものは、顕微鏡ででどう見えるの?』といった質問に答えるには膨大な時間と労力が必要でした。

(この絶望的なまでに大きく口を開いた溝の両側をつなぐべく、膨大な時間と労力をかけて橋を渡し続けてきたのがヤンデル氏、もとい、市原真先生なのである。今度また新しい本を出版されるらしい。これのテーマをライフワークとするなんて、どこまですごいんだ、ヤンデル先生…)

しかし、近年の顕微鏡技術や組織の処理技術の革新的な進歩を目の当たりにするに、この溝がこれまでにないスピードで埋まってきているのを感じます。

light-sheet microscopyという技術では、顕微鏡レベルの解像度の画像情報が3次元的に短時間で取得することが可能になり、組織学的、病理学的な画像の次元を2次元から3次元に押し上げます

組織透明化技術では、組織を薄切りにするときに避けて通れない変形という問題を抜本的に解決でき、従来のCTやMRIといった医療画像との位置情報の重ね合わせが非常に容易になります。

これらの顕微鏡画像関連の技術革新からは、画像診断学と組織病理診断学のよりスムーズで活発なコミュニケーションが可能になるミライが想像できます。


もしかすると、我々は今、医療画像の大きな大きなパラダイムシフトの縁に立っているのかもしれません。

2次元的な顕微鏡画像の世界から、『+1次元』の新しい次元が立ち上がる様を一緒に鑑賞していければ幸いに思います。


(2020.02.01 タク)




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