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40.チェロ(米川さんの絵本)

バッハ、ビバルディ、クープラン、フォーレとか。
チェンバロ、リコーダー、チェロ。
山小屋の音楽会。
ひとつの音がこだまになって山を巡る。
北八ヶ岳の山小屋には
バロック音楽がよく似合う。

解説

Saitouです。39話の新しいチェンバロの音楽会は音楽好きな米川正利さん啓子さんにとってもとても懐かしい思い出で、幾度となくお話してくださいます。
No39のチェンバロのお話にチェロのコメントいただき、そのコメントをお見せし、noteの「好き」の仕組みをお話しながら「音楽会の時のチェロの様子も描いていただけますか?」と米川正利さんにお願いしたところ、翌日には早速「描いてみました」とご連絡あり、絵を頂きにお伺いしました。
チェンバロについても、もうすこし説明しましょうという事になり、少々長文となりますが、米川正利さん出版書籍の「母がつくった山小屋」から転載いたします。

チェンバロ

北八ヶ岳の森にはバロック音楽がよく似合う。今年も秋の音楽会が始まった。チェンバロでクープランの曲を奏でている。山小屋の中から森や山々へと音が響き渡っていく。秋の紅葉も終わった十月、昼間の登山者のざわめきや小鳥たちのさえずりもなくなり、夕闇が迫って木々の梢を風がそっと揺らしている。空気が冷たく感じる山の一番静かなときだ。曲が小刻みに早く流れたり、いつまでもはてしなく続く。流れ出した音がこだまになって山々を賑わしている。
こんな環境のなかでバロックの曲が流れるなんて、曲を聴く人々にとっては最高の贅沢であり、最高の幸せと生き甲斐を感じる。毎年山小屋でチェンバロ演奏会が行われ、二十数年が経ってしまった。

私が春山直英夫妻に初めて会ったのは、富山県の友人が催した音楽会でのことだった。演奏会が終わり、懇親会のとき、隣に居合わせたのが春山夫妻だった。小さな女の子二人が両親の膝の中で眠っていたのが印象的だった。
「あなたはどちらから」
「京都です」
「私、信州から。山小屋をやってます。あなたは何を」
「楽器を作ってます。家内は演奏家です」
「私の山小屋でも音楽会をやってますので、次の会にあなたの楽器で演奏してくれませんか」
「山が好きだから山登りに行きます」
このときの春山氏との会話だった。しかし、どんな楽器を作っているのかも聞かずに別れてしまった。翌年また春山夫妻と再会し、
「私の楽器、小屋に上げてくれたら演奏してもよいけど」
「あなたの楽器は何ですか」
「チェンバロを制作してます。家内が演奏します」
「山小屋まで背負い上げられますか」
「山の人は力持ちだから大丈夫でしょう。小さいほうの一段鍵盤ですから、縦一七〇センチ、幅八五センチくらいですよ。重さは六〇キロ、楽器のカバーを入れても七五キロくらいかな」
あまりにも簡単に話が決まってしまったが、いざ小屋にあげるとなると大変苦労した。貴重な楽器なので丁寧に扱わなくてはならない。登山道の整備、湿気に弱いから天気のよい日に短時間で、小屋で一番の力持ちが静かにと、いろいろあったが無事に上げることができた。
音楽会には大勢のチェンバロの愛好家が集まった。バッハ、ビバルディ、フォーレとチェンバロで奏でる曲が流れ、木造の古びた山小屋ではあるが、森の樹々に囲まれた自然の雰囲気の中での調べは哀愁を醸し出していた。
あれから二十年、いまだに音楽会は続いている。初めて会ったとき、両親の膝の中で眠っていた可愛い女の子たちは、一人はリコーダー、一人はチェロの演奏家となり、お母さんと一緒に小屋の音楽会を手伝ってくれている。
小屋での音楽会は、森の中から湧き出す自然の音とチェンバロが奏でる調べた溶け込んで一つになってゆく。頭の中に描く情景が音楽となって耳から離れない。(P33 チェンバロ より転載)

タイトル:母がつくった山小屋 黒百合ヒュッテ六十年
著者:米川正利
発行人:川崎美雪
発行所:株式会社 山と渓谷社
2016年9月30日 発刊
価格:1760円(1600円+税)

https://amzn.to/3kRQhvI


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出版社さんへお問い合わせ、在庫がある書店などでお求めください。
なお、米川正利さん宅に数冊ですが在庫ありますので、ご希望で入手困難な方には書籍代プラス送料にてお送りさせていただきます。
ご希望の方は米川正利さんまたはお問い合わせフォーム(Saitouに届きます)までお問い合わせください。

米川さんの絵本校正中、引き続きよろしくお願いいたします。

おはなし絵:Yonekawa Masatoshi
共著:Yonekawa Keiko , Saitou

※この記事は米川さんの絵本proofreadマガジンに掲載中です



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