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社会人のための「滑らない」ロースクール進学

 在学中受験開始の影響か、はたまた学び直しブームのせいか、ロー進学を視野に入れる社会人受験生が去年あたりから増えているような印象があります。

 ただ、社会人でローに行こうという人はマイノリティ。現役の学生さんに比べて、社会人向けのロー進学情報って本当に少ないんですよね。

 筆者はたまたま先輩に恵まれたこともあり、納得のいく進学ができました。しかし、「そもそも人脈がない」「ほぼ情報がなくて困っている」という方もいると思うのです。というわけで、今回は社会人のロースクール進学について感じたことや諸先輩方から聞いた話をまとめました。一ロースクール生の拙い記事ですが、少しでも皆様のお役に立てましたら幸いです。


社会人でロー進学に向いている人・向いていない人

 いきなりのちゃぶ台返しで恐縮ですが、社会人の場合、主に可処分時間や環境の問題から「ロー進学にそもそも向いていないタイプ」という方が一定数いらっしゃるような気がしています。特に仕事をやめてのロー進学はギャンブルですので、ローに進学する前によく検討してほしいです。

 ここでは、「ロー進学に向いていない人の特徴」(※独断と偏見による)をいくつかあげたいと思います。

ローに向いていない人①授業料免除が取れないと進学が難しい人

 法曹コースの影響か、特に私学の既修コースでは奨学金の支給要件が厳しくなっているという噂があります。運よく入学時に取れたとしても、成績次第では容赦なく剥奪される可能性がありますので、奨学金をアテにしての進学は危険です。
 教育訓練が使える場合は経済的な負担軽減がはかれますが、留年すると生活費の支給がなくなるなど大変な事態になるリスクが。進学を決断するタイミングや進学先の選定は慎重に。
(※生活費の問題がクリアできるのであれば、授業料免除制度がある国立ローを狙う選択肢もあります。世帯年収を基準に判断されるので、成績次第の私大ローよりいいかもしれません)

ローに向いていない人②可処分時間が少なく仕事もやめられない人

 ロースクールに行くと、授業や通学、予習復習で拘束時間が増え、その分自分の勉強時間が減ります。しかも、司法試験はトータルの勉強時間ウン1000時間が求められる試験です。「毎日8時間寝ないと体力がもたない」「小さい子どもがいる」といった事情からもともとの可処分時間が少ない人はそれだけで不利になります。特に社会人の場合、仕事で可処分時間が減っている時点できつい戦いを強いられることは間違いありません。

 「仕事やバイトを頑張っていた社会人の同期は全員留年した」(Wロー)、「夜間ローだが、結局仕事を辞めた人が結構いる」(T波)という話も聞きます。

 仕事を辞めて(あるいは休職して)専業に近い体制を取れる人やよほどの体力自慢以外の方はマイペースに勉強できる予備試験の方が犠牲にするものが少なくて済むのではないでしょうか。

それでは進学に向いている人は?

 これについてははっきりしていて、ずばり「リスクを取れる状況にある人」です。何を持って「リスクを取れる」と判断するかは人にもよると思うのですが、そうですね。たとえば、休職制度が使える(※仕事を辞めなくて済む)、雇用保険加入済み(教育訓練が使えるため)、配偶者や実家に経済的に頼れる、資格・スキル持ち(医者、士業)などは進学にプラスに働く要素としてあげられると思います。

 ただし、「ローに行けばなんとかなるだろう」という見切り発車での進学は個人的にはおすすめしません。ローに行ったからといって司法試験に受かる保証はないですし、そもそも試験を受けられる段階まで生き残れるかどうかすらわからないからです。どのローもそうだと思いますが、例年何人かは確実に留年・退学していきます(特に未修は厳しいです)。

 大事なことですので、もう一度言います。

 大半の社会人にとってロー進学はギャンブルです。ローに受かったとしても、その後、経済的・精神的・肉体的に相当な負荷がかかることは間違いないです。プラス、マイナス、さまざまな要素を総合考慮してどうするか決断されることをおすすめします。

 なお、「進学に伴うリスクを減らす」という意味では、基礎学力は高ければ高いほど望ましいです。筆者の周りでは予備試験の戦績を進学のメルクマールにしている方が比較的多い印象です。

夜間ローという選択肢

 ここまでロー全般を念頭に置いて話をしてきましたが、社会人のロー進学といえばアレを忘れてはいけません。そう、夜間ローです。

 「仕事を辞めずにローに通えるかも」ということで、特に、都内・首都圏在住の社会人であれば、夜間ロー(T波ロー、Nロー)が有力な選択肢に入ってくるかと思います。

 夜間ローのメリットはオンライン授業が使え、時間の融通が利く点です。「どうしても仕事が辞められない」という社会人、さらに子育てや介護の事情で通学に不安がある方でも比較的通いやすいと思います。長期履修制度もあるので、(学費はよけいにかかるかもしれませんが)ゆるやかなスケジュールで修了を目指すことも可能です。

 一方のデメリットは、「体力的にとにかくきつい」。この1点に尽きます。体力に自信がない人は、少なくともフルタイム勤務をしながらの進学は避けた方が無難です。合格体験記等を拝読する限り、激務系社会人の合格者は文字どおり命を削って戦っています。学習時間を捻出するためには睡眠時間などを削って対応するしかないからです。

 確かに、夜間ローであれば仕事との両立は理論的には可能です。ただし、体力がある人に限る、という留保がつきます。「夜間ローならフルタイムで仕事しながらでもなんとかなる」は全員に当てはまる話ではありません。体力的に不安がある場合、仕事を整理するなどの決断を迫られることもあるでしょう。

 したがって、安易な進学はおすすめしませんが、異業種の仲間ができる、(若者らしいフレッシュさはない代わりに)落ち着いた雰囲気で学べるなど夜間ローならではの良さはたくさんあります。やる気に溢れた真面目な社会人が集まってくるので、司法試験と心中する覚悟が決まった人にはとても良い環境だと思います。

 さて、ロースクール界のガラパゴスだけあり夜間ローはT波、Nロー、両校ともに個性が突き抜けているような印象があります。話を聞く限り「同じ夜間ローだし、どっちも似たようなもんだろう」ということはなさそうなので、ローの説明会に行く、あるいは先輩を捕まえるなどして必ず情報を集めてください。

 以下は伝聞情報込みの両校の特徴まとめです。両校ともに雰囲気は良さそうですので、その点では安心していいかも。

T波ロー

 社会人オンリー。オンライン対応の充実度が現時点でダントツ。ゼミも充実とのこと。テストさえ受けられれば全国どこにいても修了できる説もあり、地方在住者でもなんとか…なる…かも? 出願時に原則として有職者である必要があるので注意(入学してから仕事を辞めるのは可。また、介護などの事情がある場合は例外あったはず)。書類の準備がめんどくさそうなので、出願予定者は早めに準備しましょう。なお、教育訓練が使えるらしいです
 ただし、既修の募集人数はとても少ないです。T波を狙う人は3年間の通学を覚悟した方がいいかも。

Nロー

 社会人・内部進学の学生がバランスよく混じる。夜間主を選択して入学した人はオンライン授業が使えます(ただし、オンライン参加には回数制限あり)。伝統校かつ私大ローということもあり、サポート体制が充実。昼夜開講制を採用しており、昼間の授業の履修もOK。テレワーク&フレックス勤務を上手く駆使して時間割を組んでいる社会人も存在する模様。
 既修者コースは再ロー組が多いとの噂。全部で3回入試がありますが、既修の場合は1回目が1番募集人数が多いです。行政法が2年次の配当で、法曹コースの出身者以外は免除されないのがデメリット。ちなみに私大ローのわりに学費が安め

T波ロー、Nローの入試について

 入試は両校ともに激戦です(令和6年度入試)。

 T波の実質倍率は既修約10倍、未修約6倍(※)
 https://www.lawschool.tsukuba.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2024/04/0eebc0be172e3d0420428c612e6ac5da.pdf

 
Nローの実質倍率は既修約6.7倍、未修約10倍となっています。
https://www.law.nihon-u.ac.jp/lawschool/admissions05.html

 Nローの既修枠は一見T波より倍率が低そうに見えますが、内部進学組込みの倍率であることに留意する必要があります。奨学金狙いの実力者が複数回受験しているケースもあり、実質的な倍率はもう少し高めかもしれません。

 「どうしても夜間じゃないと嫌だ」という方は既修未修併願をオススメします。

※既修未修の併願が可能なため、未修専願の場合はもう少し倍率高めかもとのこと。

筆者の場合

 筆者の場合は今のローにたまたまご縁があり、そのまま進学することになりました(※体力面を考慮し、仕事の方は整理済み)。1校しか受験しておらず、しかも急に受験を決めたため、下見や説明会も一切なし。そのためローの選び方や入試についてあまり言えることはないのですが……1点だけアドバイスを。

 進学先を今のローに決めたきっかけは、先輩・OBが口をそろえて「ウチにおいでよ」と誘ってくれたことでした。ロースクールについては「上位校に行くべき」とかいろいろ言われていますが、先輩が「来なよ!」と誘ってくれるローは誰がなんと言おうと良ローだと思います

 ロー選びというと司法試験合格率やブランドが重視される傾向があるように思いますが、数字や何となくのイメージだけでは計れない要素もあると感じます。筆者の場合、先輩から聞くまで知らなかった話がたくさんあり、それが志望校選びの決め手になりました。

 幸い今はSNSもあり、各ローの内部生やOBを探しやすい環境が整っています。進学先選びに際しては、これらの「中の人」(元含む)による内部情報をきちんと収集されることをおすすめします。

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