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NPOの給与低い問題はそれまでの問題が連鎖してなったもの

昔からNPOで働く人の条件改善を願うコメントが様々な人から発せられています。「社会問題を解決する優秀な人に、それ相応の報酬が払われるべき」「社会問題を解決する活動は素晴らしいが、給与が安いから人が集まらない」「給料が安いのでNPOは若い時はチャレンジできるが、子どもができたら養うことができず辞めざるをえない」といった給与面の条件改善の意味合いが強いです。

Webサイトのactivoさんの記事では、「NPO法人の「正規職員」の年間給与額は、「平均的な人」の平均値で約260万円、「高めな人」の平均は370万円ほどとなっています。」

また、企業の平均年収を見ると「平均給与を企業規模別にみると、資本金2,000万円未満の株式会社においては425万円(男子517万円、女子258万円)となっているのに対し、資本金10億円以上の株式会社においては635万円(男子732万円、女子334万円)となっている。なお、個人企業においては270万円(男子356万円、女子225万円)となっている(第10表参照)。」

平均値で比べると、企業とNPOでは100万円~200万円くらいの差があるので、これが埋まるといいねという希望が含まれていると思います。

NPOで働く人の条件改善を願う人が指をさしているのは誰か?

「給与水準を上げるべきだ」とNPOで働く人の条件改善を願うコメントが向けられている対象は誰でしょうか。私は、以下の3者の誰かな?と想像しつつ、この手のお話を聞くようにしています。

1. 経営者・・・経営者として職員にもっと給与を払うべきだ
2. 資金提供者・・・もっと寄付をしたり、委託費用を出すべきだ
3. 職員・・・給与水準が低いところは辞めてしまえばいい

給与を払うためには原資が必要で、それには資金提供者が関係している。原資があったとしたら次は経営者が職員に分配する意思決定をいかにするかにかかっている。職員はその給与をモチベーションに働いたり生活設計をしていく。こんな流れを想定されているのかなと思います。

NPOの収益は、「自主事業」「寄付・助成金」「委託・補助金」の3つなのですが、大きく収益が出せるのが自主事業のみです。委託・補助金は事業をまわすギリギリのラインでしか払われませんので、収益はでません。助成金も使える費目が決まっていて、事業の費用はでますが収益はでません。寄付も団体の管理費に使われることにまだまだ抵抗があり、使えても10%くらいと言われています。

そうなると、給与水準を上げる原資は、自主事業の収益と寄付の一部となります。NPOでこの自主事業で大きく収益を出しているところは少ないです。そもそも儲かる事業だったら多くの企業が進出してくるわけで、儲からないからNPOでやっている側面もあります。また、寄付を多く集めている団体はありますが、その10%くらいしか人件費にまわせないとなると少額になってしまいます。

NPOで自主事業で収益をあげている団体は、競合が企業になることが多いです。そのため人材の奪い合いになり給与水準があがりがちです。

逆に、ニッチな問題を扱っている団体は、自主事業も、助成金も、寄付も、委託もありませんからボランティアで活動します。企業で働きながら、ボランティアでNPO団体の活動をしている人も多くいらっしゃいます。給与をもらえるからやるのではなく、困っている人をほっとけないからやっているのです。

資金提供者のNPOの見方が社会的インパクトに偏りがち

助成財団や寄付者が職員の給料をあげる視点を重視してお金がいくようにすればいいじゃないかと思われる方がいるかもしれません。最近は、富裕層の寄付が盛んになったり、休眠預金といった大口の資金提供がされるようになってきましたので、その可能性を見ていきます。

過去に投稿した富裕層の寄付の記事は以下です。

富裕層を「主たる住居、収集品、消耗品、耐久消費財を除いて、1 億円以上の金融資産を持つか、または年間世帯収入が2,000 万円以上の世帯」と定義すると、日本の富裕層人口は338.7万人と米国の590.9万人に次いで世界2位の結果で、下図の通り3位以下の差は大きいです。日本には富裕層がたくさんいることがわかります。

そして、休眠預金に関する投稿は以下です。

金融機関の口座に預けられたまま10年以上取引されていない休眠預金は毎年700億円といわれており、その預金を社会課題の解決に活用する仕組みが動き出しています。初年度となる2019年度は30億円が助成される見込みになっていますが、この仕組みが軌道に乗れば今後500億円くらいまで助成額が高まっていくことが予想されています。指定活動団体である一般財団法人 日本民間公益活動連携機構(JANPIA:ジャンピア)が2019年11月29日に2019年度の助成する資金分配団体22団体、29事業を公開しました。1実行団体に対して最長3年にわたって約2000万円規模の助成がされる大規模な助成金となります。

富裕層の寄付や休眠預金といった大口の資金が確かにNPOに入ってきそうな感じがします。しかし、大口の資金を受けるためには受ける側でしなければいけないことがあります。

これらの記事で一環して言っているのは、こうした大口の寄付が欲しかったら、「事業の社会的インパクトを明示していかなくてはいけない」ということです。具体的には、「事業で対象とする受益者の変化」を見据えたロジックモデルをつくり、目指す重要な成果を指標化し初期値をとり、定期的に値をとって成果を可視化し、事業を改善していくことを指します。

ここで重視されるのは「事業で対象とする受益者の変化」であり、ソーシャルイノベーションをおこして社会問題を解決できる度合いが高い団体が資金を受け取ることができます。そこには「給与水準」とか「労働環境」などは含まれていないのです。

ロジックモデルでもインプットのところに「人・モノ・カネ・情報」と簡易に書かれて終わることが多く、実際どう得るのか、そもそも得られるのかを言及するケースは少ないですし、助成終了後の資金繰りなどを申請書に書く欄はありますが、実際にどのようにするのかを言及されたり、進捗確認されることは少ないです。

給与水準を上げないといけないと気付いた時には首が回らない状態になっている

NPOの給与水準を上げることは一筋縄ではいかないのですが、そもそも、NPOで定常的に人を雇うこと自体が難しいです。団体で雇用していく人が増えていく段階は以下のような順番で増えていきます。

➀ボランティアで活動をはじめる
➁活動を定常的に行うためボランティアを職員として雇用する
➂事務業務が増えるので事務局スタッフを雇用する
④助成金や委託、寄付のお金の流れが複雑になり会計スタッフを雇用する
⑤事業のニーズが高まり、事業担当の採用人数を増やす
⑥新規事業開発や広報・ファンドレイジングスタッフを雇用する
⑦事業で必要な人材の獲得・育成・定着のために人事スタッフを雇用する
⑧職員が増えたのでマネジメントができるスタッフを雇用する
⑨ITシステムやWebシステムを扱うスタッフを雇用する
⑩経営企画をするスタッフを雇用する

事業の成長、組織の成長と共に、人を雇用するので精一杯です。「給与水準を上げないといけないのでは?」と言われる立場になった時には、たくさんの職員がいて、上げようと思ったら多くの原資を獲得しないといけない。また多くの職員のいるNPOには公平感が重要になるのですが、「優秀な人にはそれに応じた給与を」と言って、仮に⑩で入った経営企画スタッフに高額の給与を与えたら➀~⑨の人は不公平感に耐えられず去ってしまう人も出てくるかもしれません。

NPOの給与低い問題はそれまでの問題が連鎖してなったもの

「NPOの給与低い問題」は、そもそも雇用すること自体がNPOにとっては難しいため「NPO活動では雇用できない問題」を解決するところから始まります。これを解決するには、事業を成長させることが必要になります。事業の成長に伴って、採用を続けると今度は増えすぎて管理ができずバラバラになる「NPO活動、無管理で退職者続出問題」を迎えます。それを解決するためにマネジメント体制を整えたり、会計・法務などバックオフィス体制を高めるなど組織を成長させることが求められます。次は、これだけ大きくなった組織を更に成長させるには戦略性やスピード感がさらに必要になり、それに対応できる人を雇いだすと「優秀と言われる人と従来からいる人の給与格差で組織内分裂問題」に変化します。このあたりから「NPOの給与低い問題」になってくるわけです。

解決するには経営者と資金提供者と共に考えることが必要

NPO給与低い問題は、簡単なようでそうではない根が深い問題です。これを解決するには、経営者がこうした問題の連鎖を理解した上で事業・組織戦略を持つことと、資金提供者が社会的インパクトだけでなく成長に沿った組織基盤強化もきちんと目配りした資金提供に価値があることを認識すること、その上で経営者と資金提供者が複数年パートナーシップを持ち続けることだと考えています。

さいごに

私はNPOの伴走支援を仕事にしています。NPOの成長に合わせた支援をしていくことが主になるのですが、ゆくゆくは信頼できるパートナーを探している資金提供者とNPOをつなぎ、そのパートナーシップを良好に継続できることに関われる役割になりたいなと思っています。

NPOの伴走支援に関心がある団体さん、信頼できるパートナーとなるNPOを探している資金提供者の方は是非以下ホームページをご覧ください。


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