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寄付者のナラティヴを理解し、新しい関係性を築くための4つのステップ

このnoteは書籍:他者と働く~「わかりあえなさ」から始める組織論~を参考に作成しています。

本書の冒頭にこのような記載があります。これらはNPOのファンドレイジングを技術的問題だけではなく適応課題としても捉える必要があることを示唆しています。

私たちの眼前にはたくさんの「武器」があり、戦術や戦略があります。それらの武器でなぎ倒されたあとに残るのは、一筋縄で解決できない組織の壁や政治、文化、慣習などでがんじがらめになった「都合の悪い問題」ばかりです。

(中略)既存の方法で解決できる問題のことを「技術的問題」、既存の方法で一方的に解決ができない複雑で困難な問題のことを「適応課題」と定義しました。

書籍:他者と働くP4-5から抜粋
書籍:他者と働くP5から抜粋

例えば、クレジットカード決済ができるWebページとか、SWOTなどの経営に関するフレームワークなどを使用すると、幅広い寄付募集や経営課題の絞り込みが簡単にできるようになります。これらは技術的問題といえます。

しかし、どんな素敵なITシステムで幅広い寄付募集ができたとしても、どんな優秀なコンサルタントにプロボノに入ってもらって経営課題の絞り込みができたらからといって、寄付が集まるわけではないことを、多くの団体さんは過去の痛みと共に知っています。

NPOのファンドレイジングにおいては、団体固有の関係性の中で生じる適応課題を解決することを優先した方がうまくいきやすいです。それは応援したい気持ちを持った人たちが周りにいないのに、幅広い寄付募集をしても意味がないからです。

この適応課題を解決するには、「新しい関係性を構築すること」が重要と本書では述べられています。新しい関係性を構築する上で重要になってくるのは、下図右側の「私とそれ」のように道具的な関係ではなく、左側の「私とあなた」といった固有の関係になることです。

書籍:他者と働くP21から抜粋

インターネット上で寄付を募って年間300万円くらい寄付が集まったらいいなぁ・・・と思っている時の寄付者は、資金を提供してくれる道具的な関係です。

おいおい、たくさんいる寄付者ひとりひとりと関係性をきちんと結べといってる??

と頭に浮かんだ方がいるかもしれませんが、そんな非現実的なことを言っているわけではありません。

以下にあるように、団体側が持っている寄付者に対するナラティヴ(世界観や解釈の枠組み)を変えていくことが第一歩として重要となります。

適応課題が見出されたとき、私たちはその関係性を改める必要が生じていると考えることができるでしょう。

その一歩目として、相手を変えるのではなく、こちら側が少し変わる必要があります。そうでないと、そもそも背後にある問題に気がつけず、新しい関係性を構築できないからです。

しかし、「こちら側」の何が変わる必要があるのでしょうか。

それはナラティヴです。「ナラティヴ」とは物語、つまりその語りを生み出す「解釈の枠組み」のことです。

物語といっても、いわゆる起承転結のストーリーとは少し違います。ナラティヴは、私たちがビジネスをする上では、「専門性」や「職業倫理」、「組織文化」などに基づいた解釈が典型的かもしれません。

書籍:他者と働くP32から抜粋

団体は団体のナラティヴがあります。そして、寄付者には寄付者のナラティヴがあります。最初はナラティヴが重なる人たち(当事者とか家族など)に応援してもらうことになりますが、そこからさらに多くの寄付を集めようと思うと、団体のナラティヴと重ならない人たちの応援も必要です。

その時に必要となってくるのが、新しい関係性を築くための4つのステップです。本書では以下のように説明されています。

1.準備「溝に気づく」
相手と自分のナラティヴに溝(適応課題)があることに気づく
2.観察「溝の向こうを眺める」
相手の言動や状況を見聞きし、溝の位置や相手のナラティヴを探る
3.解釈「溝を渡り橋を設計する」
溝を飛び越えて、橋が架けられそうな場所や架け方を探る
4.介入「溝に橋を架ける」
実際に行動することで、橋(新しい関係性)を築く

この1から4までの流れの理解をサポートするために例を考えてみました。

【4つのステップの例文】某NPO法人のファンドレイジング担当者のケース

「私達の団体は月5,000円のマンスリーサポーターが主となって支えられながら、多くの当事者の支援をしていくべき団体であるにも関わらず、なぜサポーターが増えないんだろうか?」

と、ある団体のファンドレイジング担当者が思っていたとします。これは団体のナラティブと寄付者のナラティブとの溝(適応課題)があるのがわかります。

その溝を前にして、「寄付者のことはわからない!」とさじを投げるのではなく、寄付者の気持ちを知るためにどこかの団体に月5,000円寄付をして応援することをしてみたとします。

月5,000円は年にすると6万円です。結構な金額を団体に寄付するのは、実際のところ懐も痛みます。「5,000円あったら、いろんなことができるのになぁ・・・」と思いながら寄付を毎月していると、毎月送られてくるメールでの活動報告への関心が高まっているのを感じるようになってきます。

「あぁ、寄付者はこんな気持ちで団体からの報告に関心を持ってくれるんだ」とか「当事者Aさんが支援をうけて変化していく様子が嬉しい」といった感想を持ったり、イベントに参加して活動している人たちや他の寄付者に会えた時に嬉しくなったりします。

そうしたマンスリーサポーター体験をして、自団体のファンドレイジングと向き合ってみると、きっと様々な人が様々な思いを持って寄付してくださっているんだろうなと思えるようになり、自団体に寄付してくれている人はどんな人達なんだろうと関心を持つようになります。

そこで、寄付者の気持ちを知る活動として、寄付者の中からファンドレイジング強化に向けたモニターとして募集しヒヤリングをしたり、一緒にキャンペーンを考えるプロボノとして参加してもらう機会をつくってみました。

そうした場での経験により、寄付者のナラティヴがなんとなくわかってきて、メールマガジンや年次報告書などでのメッセージが変わることで開封率や閲覧率が上がったり、イベントの参加者が対前年よりも増えるといった変化につながっていきました。

今給黎作成

重要なことは、溝があることは一旦おいておきつつ、相手のナラティヴの中に立ってみて自分を眺めてから、ナラティヴの溝に架ける橋のポイントを協力者を交えて考えていくことです。これが寄付者と「対話」するプロセスになっているのです。

対話というと顔を突き合わせて話し合うことを想像するかもしれませんが、それだけではなく、相手のナラティヴと自分のナラティヴを踏まえて、解釈をして、溝を超える橋をどう架けるかを考える行為も対話なのです。

こうした寄付者との対話をチームで取り組んでいくことこそが、NPOがファンドレイジングの適応課題の解決方法なのです。


今回のnoteはいかがだったでしょうか。ファンドレイジングの適応課題解決にむけた対話するプロセスを団体内に展開していきたいと思われた方は是非ご連絡ください。公式LINEやホームページからお待ちしております。

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