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対人支援における迷いや葛藤といった「ゆらぎ」に向き合うことがNPOの本質的な活動につながる

このnoteは書籍”「ゆらぐ」ことのできる力”を参考に作成しました。

ゆらぐ意味

ゆらぎとは動揺、迷い、葛藤のことです。特に対人支援をしているNPO活動では、困りごとを抱えている当事者に対する援助でゆらぎに直面します。

例えば援助をしている当事者の方から、

こんな私は生きる価値がありません、もう放っておいてください。

と言われたら、どのように声をかければいいでしょうか。

1. そんなこと言わずに、一緒にがんばりましょう
2. 私はあなたが充分生きる価値ある人だと思います
3. どうして、そんな気持ちになるのですか?
4. 生きる価値がないと思うくらいつらいのですね
5. あなたは今、生きる価値がない人間と感じているのですね
6. 何も言葉を返さず、しばらく沈黙する

書籍:「ゆらぐ」ことのできる力
まえがきⅣページより抜粋

このような返答案は考えられますが、当事者の方がおかれている環境やこれまでの暮らし、援助者との関係性などによって、どれが適した声掛けかが変わってきます。

また、選択した返答が本当に適した正解だったかは誰も断定できません。その時にはいい影響を与えなかったが時間が経ってから「あの時のあの言葉で助かりました」といい影響に変わることもあります。

こうしたことがあるので、援助をしている人は常にゆらぎを経験しているのです。

ゆらぎを感じた援助者本人は、そんな迷いや葛藤を感じることに未熟さを感じたり、自分を責めたりすることで苦しむことが多いです。

こうした面から、ゆらぎはよくないと思ってしまいがちですが、その根底には、当事者への向き合い方はひとつではないと複数の方向性を見出しており、今後の関わりをよりよいものにしていきたい願いがあります。

逆に、ゆらぎが全くなくて、どんな相手にも、どんなときも同じ回答をする人がいたとしたらどうでしょうか?首尾一貫した素晴らしい人と思うでしょうか。

人は生き方を模索し、葛藤とともに人生を歩む。そのような生活・人生に関わる社会福祉実践もまた、つねに正しい答えをあらかじめ用意することはできない。

そのとき、その時代の社会が人びとに要請する生き方もつねに同じではない。様々な挫折や葛藤、社会の矛盾や変動と関わるなかで援助者も迷い、悩み、葛藤する。

(中略)実践のなかで経験するこれらの『ゆらぎ』を出発点にしてこそ、私たちの生活・人生のもつ現実や本質を初めて明瞭な姿で捉えることができる。

また、さまざまか『ゆらぎ』とていねいに向き合うことによって、生活・人生を構造化している社会の仕組みを描き出すことができる。

書籍:「ゆらぐ」ことのできる力
P8から抜粋

こうあるように、ゆらぎに向き合うことが、援助対象の当事者に合った対応を導きだすために適した反応なのです。

ゆらぎへの対応

ゆらぎへの対応は、①否認、②回避、③向き合う、の3つの方向に進むことができます。

①否認

最も簡単にゆらぎを否認する方法は決めつけです。あの人はわがままだからとか、感覚的な人だからときめつけて、話半分で聞いとけばいいよといったように決めつける方法です。

②回避

回避は、「時間が解決することもあるよ」とか、「あなたの力を信じていますよ」、「その日は忙しくて時間がとれないかもしれません」など、その場しのぎの耳ざわりのよい言葉でその場からいったん去ることです。

先ほど当事者に対する6つの声かけの選択肢を挙げましたが、どれを選んだとしても、否認や回避の意味が含まれていると、当事者にそれが伝わります。

いくら言ってもあの人は変わらない

と、援助者が思う時、その人にかけている言葉に否認や回避の意味合いが含まれているからかもしれません。

③向き合う

「ゆらぎ」に直面する方向に進むとき、私たちは必ずしも上手な言葉、明確な助言を伝えられないこともある。

しかし、少なくとも、「ゆらぎ」を否認も回避もせず、直面しようとする言葉や姿を相手に伝えることはできる。そのような「ゆらぎ」に直面する言葉や姿が関わりを育て、深めるのである。

すなわち、「ゆらぎ」に直面する力は、関わりを育て、深める力である。

書籍:「ゆらぐ」ことのできる力
P26から抜粋

ゆらぎは単なる感情のゆれ動きの「動揺」ではなく、自己認識・自己知覚の要素をふくんでいます。

「全くゆるがない」とか「ゆらぎすぎて方向が見出せなくなる」のはざまの「ゆらいでいる状態」は対人支援において意識すべき大切なポジションなのです。

当事者の問題行動でふりまわされることもひとつのゆらぎ

なぜ、ふりまされることが起きるのか

対人支援をしていると当事者の問題行動に困惑させられることがあります。

良い援助関係が築かれつつあると思っていた時に、それと相反する行為をされると援助者は大いにゆらぎ「ふりまわされた」と感じることがあります。

ふりまわされるのは、援助者との関係性により以下の変化の中でおきます。

①関係性ができてきて、当事者が援助者に関心を向けるようになる
②当事者が援助者に影響を与えるだけのエネルギーをもつようになる
③当事者が他者に影響を与えうる存在であると感じられるようになる

こうした、援助によるはたらきかけによって当事者が変化をしている表れなので、ふりまわされることを阻止することにやっきになったり、逃避したり、無理してふりまわされ続ける、といった不適切な対応をしてしまうと、当事者の自立を妨げてしまったり、援助者のバーンアウトにつながってしまいます。

ふりまわしている時の当事者の思い

なぜ良い関係性が築かれつつある時に、それと相反する行為につながってしまうのでしょうか。

様々な理由がある中で、その1つとして本書では、苦しい過去の経験を持つ当事者は、周りの人を、自分を否定し見捨てる「加害者」と、自分を認め癒してくれる「救世主」の2種類のみで捉えてしまいがちであることを挙げています。

当事者の加害者と救世主の2極化の認識と反して、現実社会は救世主でもなく加害者でもない人の方が圧倒的に多いです。

そういう人たちとうまくやっていくには、自分の考えや意志を表明したり、自分の力を見せていくといった自立する必要があります。

こうした現実があることから、援助者は当事者と関係性を深めるために最初は救世主の役割を取りますが、どこかのタイミングで救世主でも加害者でもない役割に移行しながら当事者の自立を促していく必要があります。

当事者からすると、援助者が救世主の役割から変化した瞬間、見捨てられると感じてしまい、救世主に戻ってもらうための行動を意識的・無意識的にとってしまうことがあるのです。

ゆらぎをよりよい援助に結びつけるには

こうしたゆらぎをよりよい支援につなげるにはどうしたらよいでしょうか。本書では4つの方法を挙げて説明しています。

①自分1人だけで当事者を救えると思わず、自らの不完全性、無力性に向き合い、多様な援助者に参加してもらったり、助けを求める

②ふりまわされている原因が援助者自身の不安や理想や見栄の感情になかったかを再検討する

③「当事者を救うのは当事者自身である」というポジションをとり、援助者のできること・できないこと、すべきこと・すべきでないことをつたえる。

④ふりまわされている状態を多面的に振り返り、理解したことや発見したことを当事者に伝える

書籍:「ゆらぐ」ことのできる力
p166-p169から抜粋

援助者もゆらぎながら向き合っている姿を、当事者に見せたり伝えることで「ゆさぶりあう」関係性となります。

お互いに「ゆさぶりあう」ことを通して形成していく関係性が、ノーマライゼーションを具体化していくために必要な協同実践のプロセスであるともいえる。

つまり対立や葛藤を含めて、緊張した力関係のなかでリレーションシップを形成していくことが求められる。

またこのことなしに「共有化」や「合意形成」などが簡単になされるものではない。

書籍:「ゆらぐ」ことのできる力
p190から抜粋

多様な人が社会で共に生きていくには、固定しがちな力関係をゆさぶって、そこから生まれる葛藤を活用しながら真の合意形成をはかることが欠かせません。表面上の馴れ合いでは多様性ある関係性は成り立たないのです。

ゆらぎへの向き合い方

ゆらぎに向き合う8つの方法

援助者は当事者との関係性の中でうまれる「ゆらぎ」にどのように向かい合えばいいのでしょうか。本書には以下の8つにまとめられています。

①「ゆらぐ」自分をいたずらに否定しない。できれば、肯定する
②「ゆらぎ」と向き合う、ゆらぎをしっかり保持する
③「ゆらぎ」を多面的に観察し眺望する
④ 他者の助言を求め、「ゆらぎ」に翻弄されない多面的視点とゆとりをいっそう確保する
⑤ 誰の「ゆらぎ」なのか、関わりにおける他者性を再確認する
⑥「ゆらぎ」とは別の見方・感情を加えて、援助の進め方を再検討する
⑦「ゆらぎ」から学んだことをクライエントに伝える
⑧「ゆらぎ」の経験を通して、社会の仕組み、構造を見通す

書籍:「ゆらぐ」ことのできる力
p307-p319から抜粋

ゆらぎを否定せず受けとめる①と②の段階、そこからゆらぎを客観視する③と④の段階を経て、当事者自身を主役とする援助方法を模索する⑤と⑥となり、当事者へゆらぎの学びをフィードバックし⑦にたどりつきます。

この①-⑦の流れは当事者固有のものでありますが、社会の仕組み・構造との軋轢からゆらぎが生じています。当事者固有のゆらぎに向き合うことで、同じ生きづらさを抱えている多くの人のゆらぎの理解につながるのです。

これが⑧の「ゆらぎの経験を通して、社会の仕組み、構造を見通す」ことであり、NPOとして社会変革の事業化のスタート地点となります。

ゆらぎに向き合うために必要な能力

こうしたゆらぎに向き合うために求められる能力は多岐にわたります。本書の終盤の以下の文章に要約されています。

実践では、まずクライエントの生活・人生に関心をもつ力、感情移入する力が求められる。

しかも、生活・人生は一人ひとり個別的であり、また可変的であり、家族関係、社会関係にも広がりをもっており、さらに過去や未来とのつながりももっている。そのために、安易な理解を拒む複雑さ・多層性をもっている。

また、彼らの生活・人生には問題・課題も存在するが、彼らは健康な側面、力ももっており、これらへ関心を向けることも欠かせない。

さらに、援助者には自分と向きあう力も不可欠である。

しかし、援助者自身も一人ひとり個別的であり、可変的であるために、自分と向き合う作業におそらく終結はない。

あるいは、援助者は感情移入の力を高めなければならないと同時に、関わりにおける他者性を自覚する必要もある。

私たちはこれらの矛盾する力を養い、同時に社会を変革する力も高めなければならないし、社会的制度やシステムの創設や改善に取り組む必要もある。

書籍:「ゆらぐ」ことのできる力
p324から抜粋

さいごに

このnoteのタイトルを、”対人支援における迷いや葛藤といった「ゆらぎ」に向き合うことがNPOの本質的な活動につながる”としました。

これまで私は、NPOは、①社会問題を特定し、②その解決策を見出して実践し、③多くの人に参加してもらいながら社会を変えていく存在である、と思っていました。

しかし、それだけだとどうしてもNPOの実態を語りきれていないのではないか?と疑問をもつようになりました。

そもそも、障がいや病気など、多様な生きづらさを感じている人の存在自体は社会問題ではありません。社会がそうした人たちに適応していないがゆえに問題になっているのです。

これは①社会問題を特定する前に、「生きづらさを感じている人を支援する段階」があることを示しています。

これは現状と理想のギャップを埋めるといったビジネスっぽいものではなく、当事者も援助者もそれぞれが迷いや葛藤をしながら生活や活動をしていく、営みのようなものです。

迷いや葛藤である「ゆらぎ」を否認したり回避していたら、その後工程の社会問題の特定もぼやっとしたものになりますし、解決策も表面的なものになり、多くの人の共感につながりません。

また、職員の「ゆらぎ」を放置して個人の力のみで対応させているNPOは多いですが、そういう団体の職員さんはその混乱や葛藤に耐えることができず疲弊し辞めていきます。

当事者と援助者の「ゆらぎ」にしっかり向き合う活動をしている団体は、社会問題の特定も的確で、解決策も効果があり、多くの人の共感をよぶのでボランティアや寄付につながっていきます。

そして、職員の「ゆらぎ」を多様な関係者で対応する団体では、混乱や葛藤を経て成長につながります。援助者として成長できる団体には人が集まってくるのです。

NPOの伴走支援をしていると、事業のマネタイズとか、ファンドレイジングの強化、社会的インパクトの可視化、などが論点になります。

そもそも当事者と援助者のゆらぎにどう向き合っているのか?までさかのぼって見ると、マネタイズや人繰り、ファンドレイジングがうまくいかない原因がわかることがあります。


私はNPOの伴走支援をしています。これまでいろいろやってきたけど、どれもうまくいかなかった・・・こんな経験をされている団体さんで、伴走支援を希望される方は是非いちどご相談ください。


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