普通の言葉が素敵な言葉②「知っとぉ?」
「知っとぉ?」
高校卒業して、受験全部落ちた私は浪人。
バスと電車で1時間かけて、予備校に通い始めて3か月が経った。
JRの改札出たら2分で予備校。
校舎は、新幹線の高架沿いに建っている。
おかげでほぼ日も当たらない。
おかげでコンクリ校舎はよりひんやり。
こんな薄暗い道をあと9カ月は毎日歩いて授業へ向かう。。
仲良かった友達とも普通に連絡取ってる。
でもみんな大学に行ったから、浪人した私は何か気を使われてる気もして‥私からはあんまりLINEしなくなってきた。
まぁ、今年は勉強する1年だから仕方ない。
代わりに、高校時代はあんまり話さなかった男子と話すようになった。
同じクラスにいたけど、向こうも私も誰とでも話す方じゃなかったから、
疎遠じゃないけど仲良くもない感じのただ同じクラスだったかんじの人。
だから、予備校入ってからお互い「あ。一緒なんや」って初めて気づいた。
それでも‥最初は知り合いも少ないから、お互い情報共有したりして。
なんとなく「お昼ご飯食べる?」って1回一緒に食べた。
で、それがなんとなく週に1,2回が普通になった。
で今は、選択してる授業が同じ日は流れで一緒にご飯が普通。
「あのさ・・知っとぉ?」
彼の口癖。
「あのさ・・知っとぉ?」
「ん?」
「あそこの大学、来年倍率下がるんて。噂やけど」
「そうなん」
「あのさ・・知っとぉ?」
「ん?」
「浪人生って、現役より5点以上取らないと厳しいんて。噂やけど。」
「そうなん」
「あのさ・・知っとぉ?」
「ん?」
「日本史の教師おるやん?従姉妹が女優やりよって、
東京で芝居に出とるって。噂やけど」
「そうなん」
彼が「知っとぉ?」で始めて聞かせてくれる情報は、
ためになる話や、ちょっと面白い話が多い。
高校の時はあんまり話したことなかったから、意外な発見だった。
私はそれを「ん?」「そうなん」って聞くばっかり。
あと‥高校時代は、制服姿しか見たことなかったから、
彼の私服も意外な発見だった。
「私服、いっつも黒やね」
「自分じゃ別に意識しとらんのやけど・・変?」
「別に変やないけど」
「俺さ、洋服よぉ分からんのよね‥。
だけ銀天街んところで適当に買っとるだけなんよ」
「制服ん時より地味って‥なんか笑える」
「そう?」
「てか‥知っとぉ?黒の服ばっか着とったら運気下がるらしいよ?」
「そうなん?」
「噂やけど」
「マジで?それ受験ヤバいやん。すぐ買い直そう」
「うん。他の色、買い直し?」
「てか俺・・服のことよく分からんけ‥
今度一緒に買いに行ってくれん?」
「ん?私が?」
気づいたら、受験以外の話もするようになった。
◇
明日から、夏休み。夏期の強化講習が始まる。つまり授業の数が増える。
配布された夏期講習の時間割を眺めながらのお昼ご飯、
思わず彼にぐちをこぼした。
「はぁ・・。浪人生活の1年‥長~っ」
「そう?」
「だってまだ4カ月しか経っとらんのよ?長くない?」
「俺‥今んところ短いよ?」
「マジで?」
「うん」
「信じられん。その神経うらやましいわ」
「あのさ・・知っとぉ?」
「ん?」
「好きな人に会っとったら・・時間って短いんて」
「そうなん。・・ん?」
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