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【旅日記】花のお寺 奈良長谷寺を訪ねて(奈良県/長谷寺〜三重県/四日市)

長谷寺と聞いて、どこのお寺を想像するだろうか?

長谷寺という名前のお寺は全国各地にあるが、中でも奈良の長谷寺は真言宗豊山派の総本山として知られる。本堂へ続く399段の石段の登廊や花のお寺としても有名である。そして、西国三十三所巡礼の札所でもある。今日の目的地は、その奈良にある長谷寺だ。

朝早起きをして、京都駅から奈良の長谷寺を目指す。近畿地方へは数えるほどしか来たことがなかったので、近鉄特急に乗るのも初めてだった。見るものすべてが新鮮に映る。

大きなのっぽの古時計のメロディーが流れて、奈良方面へ向かう特急電車が出発した。ビスタカーと呼ばれる2階建ての車両も気になったが、今回は残念ながら電車の時間が合わなかったので、普通の特急に乗った。ビスタカーはまた別の機会に乗りたいと思う。

朝早かったからか、橿原神宮前行きの特急の車内は割とガラガラだった。私が乗った車両には5人くらいしかいなかった。手荷物が多かったので、隣の席にお客さんが乗ってこないことを祈っていた(隣の席に荷物を置いていたので)幸いなことに、降りる駅まで隣の席は空いたままだった。

道中、初めての路線なので、じっくりと車窓からの眺めを堪能する。停車駅に近づくとメロディーが流れるのだが、いくつかバリエーションがあり、駅によってメロディーが異なる。「次はどんなメロディーが流れるのだろう」と楽しませてくれる。総じて、特急で行く旅は旅感が増長されるから良い。

長谷寺駅につくと、駅を降りた人は私を含めて2人程度だった。駅前は何もなく、駅員が常駐していない物寂しい田舎駅といった雰囲気である。長谷寺までは20分以上の道のりで少し遠い。車が何台か参道の方面へ向かっていくのが見えたので、電車よりも車で訪れる人のほうが多いのだろう。

朝ご飯を食べてなかったので、朝からやっているお店を探し、泊瀬長者亭という店に入ってみた。奥の食事処はまだ電気がついていなかったので、不安そうな顔でキョロキョロしていると、お店の人が怪訝そうな顔をして「何か御用でしょうか?」と聞いてきた。「ご飯はやっていますか?」と恐る恐る聞いてみる。幸いなことに、「にゅうめんだけならできますけど…」という返答。

まさか朝からご飯を食べに来るお客さんが来るとは思わなかったのだろう。もしくは、ご飯は昼からなのかもしれない。お店の人がちょっと困惑した様子だったので、申し訳ない気持ちになりながら、にゅうめんセットを注文をした。長谷寺周辺では三輪そうめんを使ったにゅうめんが名物の一つみたいだ。

少し待つとお店の人がにゅうめんと塩握りが3つに、たくあん・柴漬け・梅干しを運んできてくれた。最初の対応とは裏腹に「お待ちどうさま!」と元気な声をかけてくれた。申し訳なさを感じつつ「すいません…、ありがとうございます」と言って受け取った。

朝ご飯がまだだったこともあり、お腹もぺこぺこだったので早速、にゅうめんをすすった。柚子のような柑橘系の香りがほのかに香り、薄味の上品なつゆも相まってあっさりとした食べ心地を与えてくれる。これは、夏の暑い日にはもってこいの味だろう。お漬物を少しかじり、塩にぎりを食べる。この組み合わせも格別だ。

腹ごしらえができたところで、目的地である長谷寺を目指した。小雨が降る中ではあるが、小鳥のさえずりが聞こえる良い朝である。参道に入っていくと、木造の昔ながらの古民家などが立ち並ぶ通りが続く。長谷寺の前まで来ると、さすがに参拝者をちらほら見かける。混んでいるというレベルではなかった。

正門をくぐると、そこから先は屋根のついた石段が続く。ここからは、傘を閉じて雨に当たらずに本堂まで歩くことができる。石段の横にはお花が植えてある。石段の荘厳な雰囲気と、お花の咲き乱れる華やかな感じが、なんとも不思議な組み合わせだ。

石段は最初は段差が小さいのだが、登っていくに連れて段差が大きくなっていき、きつくなっていく。途中、カフェがあるので、そこで一休みするのもよいだろう(朝9時からやっているみたいだった)

本堂まで上がると清水寺のように前にせり出した踊り舞台のような場所があり、今まで登ってきた石段の屋根がチラッと見える。また、遠くには五重塔のような建造物も見える。まわりは山々に囲まれていて、敷地がとてつもなく広く、静かな雰囲気の良いお寺だった。真言宗豊山派の総本山というだけある。しとしとと降る雨音を聞きながら、ぼんやりとしばらくベンチに腰掛けて過ごした。意外にも、海外の方は見かけず、話し声から察するに関西方面からのお客さんが多い印象だった。

最後に、西国三十三所巡礼の御朱印をいただいた。対応してくれた方が最初、納経帳の表紙を見て、西国が四国に見えたのか「四国?」と首を傾げた。私も恥ずかしがりなのでなんと声をかけてよいやらと思いながら、微妙な間が経った後、その方が「あっ、西国か!」とつぶやき、事なきを得た。

西国三十三所巡礼は主目的ではなかったので、下調べは何もしていなかったのだが、「近くに番外霊場があるのはご存知ですか?」と親切にも教えてくれた(番外とは、33箇所以外の関連する霊場を指す)。言われなかったら通り過ぎていたことだろう。ありがたい。

長谷寺をあとにし参道を下っていくと、教えてもらった「法起院」という番外霊場のお寺の看板が見えてくる。道を左手に曲がると、すぐに正門が見える。参拝者は私1人だったが、納経所には2人の方がいて、2人の視線を感じながらお参りをした。

納経を済ませて、ふと横を見ると以下の御詠歌が書かれていた。

極楽はよそにはあらじわがこころ おなじ蓮(はちす)のへだてやはある

極楽は他所にあるわけではない。自分の中にある。「極楽の蓮」と「この世の蓮」はともに同じ蓮であることに違いはない。この歌を正確には捉えきれないが、次のようなことを言っているのではないだろうか?
人が救いを求めるとき、極楽浄土という特別な場所があると盲目的に信じたくなるがそうではない。己と向き合い、あるがままに物事を見て、苦しみの原因を明らかにした先に極楽・救いはあると解釈してみた。

お寺をあとにした帰り道、草餅が有名のようで参道では色んな店で草餅を売っていた。そこをスルーして来てしまったのだが、やっぱり草餅を食べてみたくなった。古びたお店で店先で夫婦が草餅を購入して帰るのを見かけた。どれどれと眺めていると、お店のおばあさんから「どうですか?6個入りからありますよ」と言われた。1つ食べられればよいと思っていたので6個入は少し多いなと思ったのだが、声をかけられてしまったので、「ええい、ままよ」と思って、「じゃ、6個入りをいただけますか?」と言った。

すると、おばあさんが店の中に戻って、餃子の皮みたいな草餅の皮に餡を巻き始めたではないか。どうやら、売る寸前に餡にくるむスタイルのようだ。てっきりお饅頭のようなものを想像していたのでびっくりした。「採れたてのよもぎを使っていて、保存料などは使用していないので、本日中にお食べください」と言っていた。電車の中でおやつとして食べようと思った。

その後、奈良県の長谷寺駅から、三重県の川原町駅まで行くことにした。思いつきで、萬古焼の土瓶が欲しくなったからだ(前日、京都で茶筒を買ったので、お湯を沸かす道具が欲しくなったのだ)名張駅で特急に乗り換えて、川原町駅の1つ前の駅である四日市駅まで行くことにした。

名張駅で特急を待っていると、やたら特急ひのとりが通過していく。何本走ってるのかってくらいに。車体もかっこいいが、内装も豪華と聞くので、これはまた別の機会に乗ってみたいものだ。また、賢島行きの特急は混んでいたが、私が乗った名古屋行きの特急は幸いにも空いていた。

特急に乗りしばらくして津駅に近づいてくると、ファミコンの音楽のような謎のピコピコ音のメロディーが鳴って、津駅が間もなくであることを伝える。白子駅も同様だった。ファミコン世代ではないが、なんだか懐かしさを感じる。逆に、四日市駅は穏やかな普通のメロディーだった。「二度あることは三度ある」のパターンだと思って、ピコピコ音のメロディーじゃなかったので「違うんかい!」と1人でツッコミを入れていた。

四日市駅が近づいてくると、巨大な煙突から煙をモクモクさせていて、ここが四日市喘息の街かと思った(煙突の煙は、今は問題ないように環境に配慮している)

川原町駅前は萬古焼の里感は一切なく、住宅街にある普通の駅といった感じだった。そこから、数分歩いたところに「ばんこの里会館」がある。中に入ってみると、誰一人としていなかった。店もやってないのではないかと不安になったが、2階に上がるとちゃんとお店の人がいた。

ここに萬古焼のすべてが集結しているのではないかと思うほどの品揃えだった。特に、急須や土鍋のバリエーションは豊富だ。一方で、目当てだったお湯や薬膳などを沸かす土瓶は種類が少なく、5種類ほどしかなかった。イマドキ、土瓶でお湯を沸かす人も少ないし、南部鉄器などの競合もいるからだろう。

「これだ!」と思った土瓶は、在庫限りと書いてあったので、ひょっとするともう作っていない土瓶だったのかもしれない。会計をすると「2割引ですね」と言ってくれて、元値から2割引、約2千円で土瓶を購入できた。想像以上に安かった。いや、安すぎる。ネットだと、5、6千円で売っていた気がする。

帰り、川原町から桑名に抜けて、JRの快速みえで名古屋駅まで行き、新幹線で東京に帰ることにした。快速みえで名古屋駅まで一駅なのだが、信号待ちのため、桑名⇔名古屋間で2回の信号待ち。なんでかなぁと思ったら、単線区間だからみたいだ。私鉄の近鉄のほうが複線化していてリッチで、加えて快速みえは電車ではなく機動車である。近鉄がすごいのか、JRがしょぼく見えてしまう。

帰りの新幹線の中で、長谷寺の草餅を食べた。よもぎの味がほのかに感じられ、餡も控えめな甘さでしつこくない。シンプルだが美味しい。これは当たりだなと思いニッコリした。

旅日記(2024/04/21)

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