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【#26】異能者たちの最終決戦【四章 アフターダーク 】

四章 アフターダーク

深夜のホテルの寝室で相馬カオルは重い頭痛と吐き気の中で目を覚ました。彼はベッドから立ち上がると自分の身体の内側がドロドロに溶けているような気味悪さを感じながら洗面所までよたよたと歩いた。おもいっきり吐くと自分自身がゲロと共に排水口に飲まれていく錯覚をした。あるいは今いる自分がゲロで、排水口に消えてったゲロこそが自分の本体のような気がした。それから鈍い身体を引きずり部屋の冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出しガブ飲みした。大分気分が良くなったのか、彼はそのまま床に座り込んだ。そこからベッドの上の裸足の足先が見えた。ペディキュアをしている女の足だ。彼は女の名前を思い出そうとした。ヒカリと言う名の娼婦だった。微笑むと左頬だけにえくぼが出来る女だった。そして、質の低い効きの悪い薬だからといっての量を増やしたことを後悔した。全てあのババアのせいだと呪った。自分の俳優生命を握るビーダッシュの女社長の谷元。あいつめと。彼はペットボトルの水を飲み干すと、それを女の足に投げつけた。爪先に当たり空虚な音を立てて床に転がった。彼は寝ている女も起きたら自分と同じように苦しむだろうなと想像する。女の足はピクリともしない。彼は重い腰をあげ片手でその足を叩いた。そして、完全に立ち上がり女を見下ろした。女はゲロを口の周りにつけ、目を見開いて天井を見ていた。彼は慌ててベッドに乗り、女の口に手を入れゲロを掻き出そうする。次は女の身体を横にして背中を何度も叩いた。空のペットボトルの様に空しい音がした。彼は仰向けに戻し、心臓マッサージを試みた。だが、ゲロまみれの口から呼吸が戻ることはなかった。完全に静寂とした裸体の人間を前にして彼は呆然とした。そこに存在しているものが信じられなかった。女の目は虚空を見ていた。

彼は電話をかけた。絶対に使うものかと誓った緊急時の電話番号。谷元がなにか困った時に使えと言われた連絡先だった。こんなもんに頼った時は完全に谷元の性奴隷になることを意味した。

電話は10秒程で男が出た。

「なんだ?」

谷元の名をだし、それから自分の名を告げた。

「女が死んだ。谷元からもらった薬で死んじまった」

彼の声は震えていた。

「よく聞き取れない」

男は冷淡に言った。

「頼む。何かあったらここに連絡しろと谷元幹江に言われたんだ。知ってるだろ?」

「ああ知ってる」

「じゃあやってくれるんだろ?」

「まあ場合によるがな」

彼は腹立たしくなった。

男は抑揚なく続ける。

「場所を言え」

彼はホテルの名前と部屋番号を伝えた。

「いいかそこを動くなよ。女にも触れるな。」

「わかった。早く来てくれ」

電話が切れると、彼はそこに立ちすくんだ。


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