不自然なくらいに幼稚で切ない嘘半分のメモリーズ

このごろ

窓際に置いてあるパキラの向きを変えた
横を通るとき葉が顔を掠める程成長していたから

マフラーを首に巻かずに帰った
裸で渡されたDVDに傷がつかないよう
どうか守ってと柔らかな鎧を着せて鞄の底に沈めたから

道端にぽかりと空いた穴を見た日、諦めと決心があった
まるでダメな恥ずかしい失敗も入る穴はどこかにあることを知ったから

キッチンにて少し町に親しみを覚えた
丸椅子に座り窓から差し込む陽光に影を伸ばす
入っては出て行く隣家のご飯の匂い、はしゃぐ子供の声にしばらくの間身を任せる
だってなんでもない話は好きだから

苦い重力があった
いつもは平気なはずの重さもダメだった、理解した気になっていた甘ったれた自意識はコーヒーに溶けて混ざらなかったから

雨の降る川沿いを歩いた
川面に映るアパートや近くの学校の特別棟、雨に打たれてモザイクがかっていく日常風景
どんどん強くなる雨足とそれに伴い次第に低くなっていくピクセル数。何もかもがごちゃ混ぜになる
僕はいっそのことそれに紛れていたかったから

喧騒の中クラクションは唸った
つい小さく本音を言いそうになる
次にいつ会えるのかわからないことをお互いに知っていて、それでもなおいつも通りの帰り際お決まりのやりとりに鼻の奥がつんと熱くなったから

夕方に現れる交差点に息を漏らした
初めてみる空の色と未だにLEDにならない薄ぼんやりとした青信号、同系色が街の営みに大きなコントラストを作ってみせた。その景観が素晴らしく郊外での暮らしも悪くないと感じたから

お腹が空いたのに気づいた時会いたくなった
30km弱くらいの距離を日がな一日泣きそうになりながら延々と歩いた
触れば崩れ落ちる雲の下で歩みを止められない足は棒になるどころか熱を帯びて膨れ上がる
初めて通る道にあったパン屋、公園の変な遊具なんかをぼうっと眺めいくつもある横断歩道を渡る
今と昔を行ったり来たりしながらくたびれた角を曲がった。そこにいた猫と目が合ったとき話したい事がいくつも浮かんでいたから

文字を書くスピードで考えてみた
間違えたり止まったりしながら
ちゃんと凹んだり滲んだりして
きっとそのほうがいいから



このごろ

窓際に置いてあるパキラの向きを変えた
明日には笑っていたいと思ったから



それでは

追伸
滑り出したペンの先は泥の中で朝を待つたび
春の奔放さに驚くたび伸びていくような
そんな気がします
いつかは届きますように
最後は君に届きますように

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