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世界の中心で嘘つきと叫ばれたバケモノ

 おおよそ「絶叫マシン」と呼ばれるものについての感性にガタが来てるんじゃないかな、と思う。よく列の真ん中より端のが怖いとか、いややっぱり真ん中の方が怖いとか言うがあの違いがいまだにわかっていない。どこに座ったとて高くて速い、以上である。前向き後向きどっちが怖いとかもよくわからない。景色の流れる方向が変わるだけで高くて、速い。それだけの話である。足は床についててもプラプラしてても景色は変わらない。高くて、速い。

 1番怖かったな、と明確に言えるのはバンジージャンプ。足にガチガチにハーネスが巻かれているとはいえ、やはり地上30m超から己の足でピョンと飛び降りろと言われればかなり身の竦む思いがした。自分でスイッチを押して落ちるエクストリームスイングに乗った際もスイッチを押す瞬間はかなりドキドキした。自分のアクションを伴う形の絶叫マシンはいい。「乗る」とか言うより「身を投じる」みたいな感じがするところが、いい。

 場所は変わって、東京ディズニーシーの話をしよう。最後に遊びに行ったのは今年の2月くらい。今なお続く大騒動の予兆が見え始めた様な時期であった。私と友人Kは「是非にミラコスタに泊まりたい」という目的で、東京観光をして遊ぶうちの1日をディズニーシーで過ごすことに決めた。私と友人KがTDRに行くのは初めてではない。その前の夏にランドとシーに1回ずつ遊びに行っている。

 友人Kは絶叫マシンが得意な方ではない。全く乗れないわけではないが、あんまりハードなのは乗れないと言う程度である。彼女は「タワー・オブ・テラー」にだけは乗りたくないと何度も念を押してきた。前回訪れた際かなり何回もアップダウンを繰り返されたのがトラウマだったらしい。私的にはいっぱい落ちられてお得じゃない、と思うんだけど。

 旅行の段取りは私に一任されていたので、TDSのチケットも私が取っていた。TDRにはスマホにチケット情報を登録し、その情報からアトラクションに優先搭乗ができる権利を取得できるファストパスという制度があって、それ関連の作業も私が独断で行っていた。人気のアトラクションは早いうちに申請しておかないと優先搭乗枠が埋まってしまうため、午前のうちには夕方の枠しか予約できないこともザラである。

 TDSの人気アトラクションの1つに「センター・オブ・ジ・アース」というのがあって、なんか地中を探検するみたいな、そういう内容のものがある。午前9時かそこら、1つ目の枠を消化し終わり、新しいパスを予約しようとした際、そのアトラクションはすでに最速17:30の枠しか空いていなかった。その日は何しかの事情で19時にはパークが閉まるそうだったので、早急に予約せねば!と思った。朝飯代わりのギョウザドッグを齧りながら私は友人Kに尋ねる。「センターオブジアース、予約するね。ほら、ここの近くの潜るやつあったじゃん。」友人Kは餃子ドッグを齧りながら呑気に「いいよ〜。」と返事をした。タワー・オブ・テラーじゃなきゃ何でも良いっぽかった。

 私たちは存分にパークで遊びまくった。アトラクションに乗り、景色の写真を撮り、道端のショーにはたと足を止めながら麻辣味のポップコーンをつまんだ。あと落とし物のボッキリ折れたニベアの色付きリップの写真を撮ったりもした。時間が過ぎるのは早く、あっという間に日は落ちていた。時刻は17:30。予約した居酒屋の時間に間に合うためには18:30にはパークを出るのが安心だろう。これが最後かあ、と私たちはセンター・オブ・ジ・アースに向かった。

 アトラクションの入り口で機械にスマホをかざすと優先レーンに案内される。長蛇の列をどんどんショートカットして歩いていくのは気持ちがいい。TDLのアトラクションというのは列での待機時間が長い分、その過程でアトラクションの世界観の説明も行う。私の記憶は大方当たっていた。私たちはこれから地底世界を探検するらしい。地上から探検用のトロッコに向かうため、列から6人ずつくらいに振り分けられて、これまた荘厳で雰囲気あるエレベーターに乗っけられる。

 ここで私はあるトリビアを思い出す。「センターオブジアースのエレベーターってね、下っているように見せかけて実は登ってるんだよ。」え、あれ?もしかして、これ高いやつだっけ?いやそんなわけなくない?だって地中潜るんだから高いわけないじゃんね、海抜マイナスだもんね。多分これ別のエレベータの話だわ。他にもあるでしょなんかエレベーター乗るの。

 エレベーターを降りるとこれまたそこそこ長い列がある。ここからは優先搭乗者と通常搭乗者の区別はなくなるので、15分くらいは待つ。そんな時間は雑談していればすぐに潰れるし、あんまり「待ったな」という心地はない。友人Kと談笑しているとすぐに発車するアトラクションが見えるくらいの位置まで進んだ。

安全バーがあった。

 安全バーがついている。座席に。安全バーがあるってことはどういうことかというと、バーがないと安全じゃないってことである。え、これ、怖いやつなん?私は怖いやつかどうかを思い出せなかった。今まで3回来場した時の記憶をひっくりかえしたが、「どのアトラクションが怖いのか」についての記録がなかった。絶叫マシンに対する怖いの感覚がイっているからだ。ソアリンとタワーオブテラーの間に境目はない、私の中では。だからどれが怖いやつなのかとか全然思い出せなかった。でも安全バーついてるからさあ、ねえ。

 友人Kもこのことには流石に心配し始めた。「ねえこれ、怖いやつじゃないよね。山の上からピョッと出てたやつじゃないよね。」いや違うと思う、だってこっちには確固たる証拠がある。「いや、地中旅行でセンターオブジアースでしょ?山の上から出るこたないでしょ。」

友人Kは「そっか〜!」と言った。

 いよいよ私たちの順番が来て、順番通りに地中旅行に出発することになった。安全バーを下ろすと、車輪のロックの解けるプシュンという子気味良い音がする。キャストのお兄さんが行ってらっしゃいと笑顔で手を振って、トロッコは待機列の前を発った。前途は薄暗い。友人Kは怖がっている様子で、気を紛らわすためにしりとりをしようと提案してきた。リンゴ、ゴリラ、ラッパ……。トロッコはおかしな生物が蠢く地中世界を進んでゆく。ピンクの虫が炎を吐いて、右頬がほんのり温まる。パ、パ…パンナコッタ、田植え、エトランゼ……エトランゼ?ん〜、ゼ、ゼ、ゼミ合宿……いやタイムリーだなあ。

 刹那、冷風。

 外であった。高い、速い、夜景きれい、寒い。落ちていた。山の上からピョイっとしていた。ああ、それにしても寒い、速い。あと夜景きれい。周りがキャアとかギャアとか言っている。そうだ、これ怖いやつだったんだな。

 「嘘゛つ゛き゛!!!!!!!!!!!」

 友人Kは地球の中心で、間違いなく私をそうなじった。ごめんて。いやごめんて!!私はそう叫び返して、申し訳なさとすべらない話っぷりにゲラゲラと高笑いをしていた。ちなみにその旅行の帰りに寄った喫茶店にぜんざいがあって、餅と白玉どっちを入れるか選べる仕様だったんだけど「白玉は所詮餅の代替品、餅のが優れている」「餅は元々飯用に作られたもの、甘味用に作られた白玉の方が優れている」と双方の立場に立ったところ、友人Kからさらに「信頼できないピエロ」と呼ばれる羽目になった。

 早く絶叫マシンへの感性を取り戻して人間に戻りたい。手始めに富士急ハイランドに行ってみようと思います。

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