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【ぶらりくり】たま

 街を歩くのが好きだ。
 日本であればどのような土地であれ人の住む住宅地にそれほど大きな違いはないような気もするが、それでもそれぞれの土地土地の持つ雰囲気や表情というものはほんの少し移動しただけでも随分と違ったものがあったりする。この土地に住む人は普段どういうことを考えて、どういう気分で、何をしようとしてこの道を歩くのか。そんなことを考えながら街を歩くのはとても楽しいし、ときに思いがけない発見があったりして常に知的好奇心を満たしてくれる。
 例えば、俺が個人的によく使っているJR中央線の駅に西から三鷹駅→吉祥寺駅→西荻窪駅→荻窪駅→阿佐ヶ谷駅→高円寺駅と駅が続いていくエリアがある。たった一駅、歩いても20~30分とかからないくらいの距離であるにもかかわらず、それぞれの駅周辺の道の作られ方、建物の放つ雰囲気、往来する人の服装、立ち並ぶ店や商店の趣きといったものは全く異なる。こういった細かな街特有のちょっとした違いを見つけるのはとても楽しく、最近では土曜日ないしは日曜日に京王線の各駅に目的の駅を一駅決めてその駅周辺を散策するのが週末の日課になっている。とりあえずは京王線の全駅を踏破するのが直近の目標だ。
 そんなそれぞれの街にはそんな楽しみ方があるが、日本全国の住宅街を巡ってきて最も好きな場所が東京都西部だ。東京の西は人が住み、暮らしを営んでいくことに対してこれでもかというほど最適化され、なおかつ遊び心もちゃんと残されている、まさに街づくりの理想のような場所だ。このベッドタウンとして世界中探しても見つけることが難しいほどトップクラスに優れた理想郷を、俺は敬意を表して「たま」と呼んでいる。

 ただ、その「たま」の中にもさらに秀でている美しい完璧なエリアはどこなのかと考えたとき、俺は多摩センターだと思っている。多くの街は「お、このエリアはいいな」と思う場所であっても、それは駅の一方向に歩いただけの場合が多く、真逆の方向に歩いていくと途端にその調和が崩れてしまったりする場所も少なくはない。一方、多摩センター駅周辺は南部が一番良いが北に行っても東に行っても西に行っても愉しい。様々な側面から見ても欠点がほとんど見当たらず、長所はどんどん出てくる。唯一の欠点は都心へのアクセスにやや時間がかかることだが、この課題は新宿駅直通の京王ライナーを利用することで解消される。
 というわけで、このノートで多摩センターという街を好き勝手紹介する。

多摩センター駅

 多摩センターに行こうとしたときにまず最初に見るのが多摩センター駅である。多摩センターには京王線、小田急線、多摩モノレールと3種類の路線が入っているが、個人的には京王線のホームが一番おすすめである (そもそもの前提として三路線が乗り入れていることがアクセスの良さからポイントが高い)。一つはベンチが電車の進行方向に対して垂直に並んでいるのが良い。私の地元にも (電車ではなくレールバスだが) 駅のホームがありそこに待機時間を座って過ごすための椅子が設置されているが、すべて進行方向に対して平行に椅子が並んでいる。この電車に対して垂直に椅子が設置されているというホームの広さにゆとりや余裕を感じることができて、この椅子の配置を眺めているだけでも少しだけ疲れが取れるような気がしてくる。
 そして、次の推しポイントが京王線カラーであるピンクが駅構内の様々な箇所で見られるところにある。なぜかわからないが市街地とピンク色はすごく相性が良いように思うというか、ワンポイントだけ入っている目立ちすぎないピンク色はベッドタウンを引き立たせているような気がする。共感する人だけが共感してくれればそれでいい。

京王多摩センター駅ホーム

 ホームを抜けて改札を出ると改札前の広場に出るが、この空間が良い。改札を出て向かって左手がすぐ出口に通じていて、そこから日光が入ってくるのでどちらに出口があるのかが所見の人にもわかりやすく、歓迎されているような気分になるのが良い。そしてふと真上を見るとサンリオキャラクターが描かれているのも多摩センター駅ならではの独自性が出ていて「ほかのどこでもなく"多摩センター"という場所に来た」という気分にさせてくれる。
 中央に柱が立っているのも想像力を掻き立てられる。サンリオピューロランドに遊びに行く改札前で待ち合わせしている人は、この柱に背を凭れさせてスマホでもいじりながら待つのかなぁなどと想像する。この駅のそれぞれの構造物はどう使われるのか、などをつぶさに思い描くのも街を見る楽しさの一つだと思う。裏を返せば、そういう想像力を無限に働かせることができる構造物であふれているのが"好きな街"の一つの条件なのかもしれない。

多摩センター駅改札前

 駅を出ると開けた場所に出る。この場所に三角の透明な天井構造物がシンメトリックに立っている。面は透明で日光を透過するが骨格は影を作るので、日が照っている日にはその陰のつけ方を見るのも面白い。

多摩センター駅エントランス

 日が照っていると、柱の影が交差して様々な見え方で影を楽しめる。

エントランスの影

 側面の壁にはサンリオのキャラクターが描かれていて、ふと脇に目を振っても楽しめる。

エントランス側面

 ここで後ろを振り返ると、多摩センター駅の看板が目を引くが、駅へと変えるときにもサンリオキャラが見えるようになっていて、帰りも楽しめるようになっている。

多摩センター駅正面

多摩センター南部

パルテノン大通り・ハローキティーストリート

 エントランスを進んだ先には丘の上プラザというショッピングセンターがある。要はイトーヨーカドーで、その他ファッション、雑貨、レストランなどの複数の専門店舗が入居している。価格は周辺の店舗と比べてやや高めなのであまり普段使いのスーパーではないのかもしれないが、幼少期にこういうところにお使いに行けたら素敵だなと思う。

丘の上プラザ

 この丘の上プラザを左に折れて西に進んでいくとサンリオピューロランドがある。このノートはテーマパーク開設ガイドではないので多くは語らないが、外観を見るだけでも楽しい。ピューロランドにつくまでの道もそのタイルの色がサンリオを想起させるような色で構成されていて、歩いているだけでワクワクしてくる。ちなみにこの施設を俺は敬意をもって"実家"と呼んでいる。

サンリオピューロランド

多摩中央公園

 多摩中央公園は多摩センターのシンボルの一つであり、結構広めの緑化公園なのでそれなりに楽しめる。どの側面から眺めても画になるけれども特に好きなカットを紹介していく。

 中央公園東部のグリーンライブセンター近くの道。この道を始めて歩いていた時は、周辺の木が桜だったなら春はすごく眺めがよいだろうなぁと思いつつ歩いた。

中央公園東部

 公園の東側には大池のほとりにガゼボが建っている。公園の北側には廃校になった中学校(現在は図書館)があったので、当時は中学生らの通学路になっていたかもしれないなあと思いながら歩くと元気な子供らが想像できて楽しい。

多摩中央公園ガゼボ

 こういう公園のシンボリックな構造物に出会うと、"幼少期にここで青春時代を過ごした中学生・高校生にとって、この光景はどのような印象を彼・彼女らに残したのだろうか"ということを常に考えてしまう。大人になって疎遠になってしまった親友とよく遊んだ場なのか、昔片思いしていたの相手とともに通った道なのか、いろいろなストーリが無制限に考えられてとても楽しい。

多摩中央公園ガゼボ2

西落通り周辺

 多摩中央公園を南西に抜けると桜美林大学を西に遊歩道が伸びている。西を大学、東をマンションに挟まれたかなり広めの遊歩道は人通りも多くて歩いているだけで活力がわいてくる。こういうニュータウンの遊歩道はどこも街の"若さ"が表れていてとても好きだ。

桜美林大学東の遊歩道

 個人的にすごく好きなのが、この遊歩道の街灯が立方体である点である。街灯は丸型より四角のほうが美しいと個人的に思っている。電気がついているときは勿論、消える瞬間の美しさが丸型よりも四角型のほうが儚さが感じられて一層美しいと思う。

街路灯

 そのまま西落通りを北上していくと"にしおち橋"という歩道橋が表れる。このにしおち橋の北東には旧西落中学校があるので、おそらくこの歩道橋は通学路として使われていたのだと思う。学校の近辺にある構造物は常に、「これは当時学生だった人にはどのような視点で見えていたのだろうか」ということを考えてしまう。特に通学路と歩道橋という二つの概念はとても相性が良く、組み合わせることで多種多様な化学変化を起こす可能性がある。この歩道橋の上で、そばで、いったいどんな青春のドラマがこれまで起こってきたのかはここを通るたびに考えてしまう。

にしおち橋

 あと、さっき街路灯は丸より四角のほうが良いと書いたが、歩道橋の街路灯だけは例外として丸形のほうが良い。

歩道橋の街路等

 にしおち橋を渡るとぐるりと運動場を左回りに回るように通路が伸びていて、校門につながっている。俺は学校のフェンスを見るのがとても好きなので、この道路をフェンスをバックに様々な角度で校舎を見ながら歩くのが好きだ。

旧落合中学校校舎周り

旧西落中学校 (多摩市立図書館)

 旧西落中学校は現在は多摩市立図書館となっており、だれでも自由に入ることができる。通常は卒業したらもう戻ってくることはできないはずの中学校に入れる貴重な建物だ。ただし、2023年7月には移転予定なのでできるだけ今のうちにたくさん入っておきたい。

旧西落中学校校門

 図書館なので本来は調べ物をしたり本を読んだりしたりするはずの場所だけれども、中学校の構造物がそのまま残っているので所々で童心にかえることができてとても楽しい。この建物自体にはもう何十回も入っているけれども隅から隅まで建物を睨め尽くしたいので全く飽きることがない。
 この学校は渡り廊下や体育館裏のスペースとかがそのまま残っているのでとにかくエモい。

渡り廊下
中学校裏門
校舎脇の階段
体育館裏
体育館裏2
水飲み場

 図書館の裏にはベンチがあって休憩できる。どの景色も最高に良い。

校舎裏
校舎裏2
校舎裏3
校舎裏4

宝野公園・富士見通

 図書館からさらに南下していったところにある宝野公園と富士見通は多摩センター屈指の桜の名所でもあり、4月ごろに行くとお花見が楽しめる。

富士見通りの桜並木1
富士見通りの桜並木2
富士見通りの桜並木3
富士見通りの桜並木4

多摩センター西部

La Pala

 正直、駅の西部にはあま行ったことがない。今後絶対に行ってみたいなと思いつつ、まだあまり行けていない。が、駅の西部にあるナポリ料理店La Palaのピザはとてもおいしい。パスタにせよピザにせよ、イタリア料理のキーワードは乳化にあると思っていて、水分と脂分をちゃんと混ぜ合わせることに成功した料理が好きだ。その点、この店のピザはいつ行っても乳化のレベルが安定して高い。

La Paraのピザ
La Paraのピザ2

 あと、いったことはないけど蕎千花というお蕎麦屋さんがおいしいらしいので今度行ってみたい。

多摩センター東部

乞田川

 多摩センターの西から東にかけて乞田川が流れている。都内の桜の名所を上げるなら、俺は一番に立川の根川緑道を推すが次点でこの乞田川沿いの桜並木の光景は美しいと思う。

乞田川1
乞田川2
乞田川3

 これは京王線の南側を伴走している道路。こういう線路と並行して走っているけれども途中から折れてしまう道を見るのが好き。

京王線脇の道路

 あと、LE JARDIN BLEUというお菓子屋さんが評判が良いと聞くので今度行ってみたい。

多摩センター北部

愛宕団地

 多摩センター北部には愛すべき団地群が並んでいる。南部の方が文化的にも自然的にも景色としては面白いが、住宅地が密集している北部には「ここに住んでいる人は日々どういう風を感じながら生活をしているのだろうか」と想像力を煽られ、また別の楽しみ方ができる。

多摩の団地1
多摩の団地2
多摩の団地3
多摩の団地4

その他

桜ヶ丘公園

 多摩センター駅から4kmほど東に行ったところにある都立桜ヶ丘公園も散策の通り道として歩いていてとても楽しい。30平米以上ある広大な公園では起伏に富んだ散策路や芝生広場などいろいろな景色が楽しめる。

桜ヶ丘公園
桜ヶ丘公園

 桜ヶ丘公園の中でも一番好きなのが北部にあるゆうひの丘。景色も良いし、日が沈んだ後に行けば夜景もきれいに見える。

ゆうひの丘1
ゆうひの丘2
ゆうひの丘  (夜)

おまけ

 多摩に行くときは、大体多摩センター駅→周辺散策→桜ヶ丘公園→聖蹟桜ヶ丘駅のようなルートを歩いて帰ることが多いが、結構良い運動になる。

 ちなみに多摩センターの次に好きな街はどこかというと、二位タイで武蔵関と高円寺。東京都外も入れてよければ愛知の桜山と覚王山だと思っている。これらの街からはやや劣後するが高尾や京王片倉、立川、吉祥寺、上石神井、豊島園も好きなだし、東京都の西部以外では茗荷谷も良い。あとは福岡の西戸崎も好きな街の一つである。

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