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「ウィル」のお知らせ

NHK-FM青春アドベンチャー「ウィル」の脚本を書きました。

去年は時代劇を書きましたが、今回は西部劇でございます。
大の西部劇好きで「いつか自分なりの西部劇を作りたい」と思ってきましたが、ハリウッド進出にはまだまだ時間がかかるぞ、というところで「ラジオならガチ西部劇ができるかも!」と企画を出した作品です。(いつもお世話になっているプロデューサーを「なんで西部劇???」とキョトン顔にさせましたが)

西部劇というのは、当時のひどい人種差別を土台にした描かれた作品が多く、暴力的で男性優位な価値観を是としている点でも、今では化石的な扱いを受けるジャンルです。
最近はハリウッドでもそれを飲み込んだ上で、ブラックを主役にした作品(実際、当時のカウボーイの3人に1人はブラックだったという説もある)や、女性を主人公にした作品、ホモフォビアに葛藤するカウボーイの作品などが作られています。

【唐突に私のオススメ西部劇5選】

「駅馬車」
マッドマックスもビックリのカーチェイスならぬ馬車チェイスは必見!
そして馬車に乗り合わせるキャラクター一人一人の立ち方とセリフも最高。弱い者同士、女同士の関係もしっかり描かれていてグッとくる(ただしインディアンへの差別あり)
「真昼の決闘」
ゲイリークーパーは天然系の役がよくハマりますが、これはその最たる例かも。主人公のゲイリークーパー、空回りしすぎで途中から無条件に応援したくなってしまう。いざという時、大衆は問題から目を逸らして声を上げた人に全ておっかぶせるという描写もシニカルで好き。
「ゴッドレス」
Netflix制作のドラマ。鉱山の事故で男性が全員死んでしまった町の話。とにかく映像が綺麗!そして女たちがめちゃくちゃかっこいい!ラストの銃撃戦は私のベストオブ銃撃戦。インディアンのばあちゃんも最高です。
「ジャンゴ 繋がれざる者」
タランティーノ監督が近年ずっとやってる「史実をぶっ壊す」系のエンタメ西部劇。悪役コンビのディカプリオとサミュエルLジャクソン、胸焼けしそうなほど濃厚な演技なのにずっと見ていたくなる。ラストはスカッとします。
「許されざる者」
「昔ブイブイ言わせていた男が再び立ち上がる」系のベストとも言える、イーストウッド御大の傑作。御大の作品は、男気ってこういうことだぜ、と言いつつ、そのために暴力が悲惨な結果をうむ現実を描いているのが好き。

そういった西部劇の“事情”がある中で、私なりに今見たい西部劇を書いたつもりです。
執筆後に想定外の事態もあり、力不足を認識している部分もありますが、少しでも当時のアメリカ西部の乾いた空気を感じていただければ嬉しいです。

ちなみに作中に出てくるいくつかの出来事は、マークトウェインさんのエッセイから頂戴しました。
トウェインといえばやっぱりトムソーヤですけど、彼自身も非常に面白い人で、今でいうピン芸人的な仕事をしてたことは驚きの一つでした。
「笑いに大事なのは、喋る時の間。間がコンマ1秒でもズレたらマジで笑えなくなる」というようなことを言っていて、めちゃくちゃ親近感湧いたり。
だよね、わかる。

では放送後、また少し小ネタを追記しようと思います。
「ウィル」どうぞお聞きください。

(2023.5.19追記)
「ウィル」全10回の放送が終わりました。
聞いてくださった皆様、ありがとうございます!

興味を持ってくださる方がいるかわかりませんが、少しだけ裏話というか小ネタ的なことを。

・トウェインくんの身の上話、多分だいたい実話

トウェインくんのエッセイは、現実と自虐とジョークが同列に書かれており、さらに本当に隠したいことは誤魔化されているため、イマイチ何が事実なのかわからんのです。
ただ南軍に従軍してすぐに軍隊を離れたことや、儲け話に飛びついて破産したことは本当だそうです。あと女性の前だとすぐ照れちゃうのも。
ゲティスバーグの戦いの時、ネバダに夕立が降ったというエピソードも彼のエッセイから拝借しました。
一時期は書き物より講演で稼いでいた彼らしく、ユーモアと皮肉、そしてアメリカ精神に溢れたエッセイはオススメですよ〜

・デイジーとフランク

デイジーには私が思う西部劇のカッコよさを、フランクには私が思う西部劇の悪どさを詰め込みました。
デイジーのように女性ながら南北戦争で戦った人がいるのは記録に残っていて、抑圧から自由になるための手段として男装での従軍を選んだ人もいれば、単純に旦那についていきたいからという人もいたそうです。
どんな理由にせよ、皆必死だったんでしょう。
ちなみにフランクという名前は、私の好きな西部劇ヴィランから拝借…
演じていただいた千葉哲也さんのお力で、この2人にも引けを取らないフランクが生まれたと思っております。

「ワンスアポンアタイムインザウエスト」のフランク(ヘンリーフォンダ)
関係ないけどこの映画のオープニングは最高オブ最高
「ゴッドレス」のフランク(ジェフダニエルズ)

名前で言うと、ウィルはアイリッシュ系、デイジーはドイツ系という設定があったので、それぞれに多い名前から取りました。
そして劇中ではほぼ名前を呼ばれていませんが、フランクの部下にはそれぞれ
・ティム(ウィルがデイジーを探すときについていった人)
・スティーブ(デイジーに手を撃たれて悲鳴あげてた人)
・ミック(フランクにいきなり殺されたかわいそうな人)
という名前をつけていて、これは「パルプフィクション」に出演している俳優さんからいただきました。
個人的な趣味爆発!
実はティムやスティーブのシーン、あとウィルとデイジーのシーンも私が書きすぎてカットになったところもあり、何かの機会に脇役までガッツリ触れたものを世に出せればなと思ったり。

・モーガンとダバイ

私はこの2人を書きたくて、このお話を書いた部分もあります。
ちなみにトウェインくんは後年「ハックルベリーフィンの冒険」で黒人の使用人・ジムとハックの逃亡劇を書いてるくらいですから、南部出身者にしてはかなり黒人にフラットな目線を持っていましたが、「ウィル」で設定した時期は先住民のことは明らかに差別してました。
ただそれを晩年に改めたのがトウェインくんの信用できるところです。
ちなみに「ハックルベリーフィンの冒険」で、ジムを逃がす(当時は大罪)ことを決めたハックが言う
"All right, then,I'll go to hell."
というセリフこそ、まさに私の思う西部劇のかっこよさを端的に表したセリフだと思ってます。
あとは映画「駅馬車」で飲んだくれドクターが発する
「しかしだ、我々は誇り高きゴミであろう!」
というセリフ。
恥ずかしい自分でも、誇り高く生きたいものです。


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