行かないで。一人にしないで。吐き出した息は冬の空に融け、かじかんだ手は伸ばす力を失った。引き止める手段を持たないのに、暴れる感情は無数の棘となって自身に突き刺さる。唯一伝えられたのは、「…泣くなよ」止め処なく溢れる雫だけで。待ってろ、とこめられた腕の感触だけが、鮮やかで、確かで。
140字小説13

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