掴まれた腕が痛い。見透かされる目が怖い。その表情には苛立ちさえ滲んでいるのに、背後にあるドアはきっと鍵がかかっていない。追い詰めるだけ追い詰めて、最後の逃げ道は残している。狡い、という呟きを飲み込んだ。「早く俺のものになれよ」囁く声だけが甘くて。本当はもう、とうに堕ちているのに。
140字小説8

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